disc review薄明に感傷を委ね行く、夜明け前の低空飛行
REFLECTIONSCARLET
日本のスリーピース・オルタナティヴ・バンド、SCARLETの2009年の作品。Gt.Vo.橋本洋介とBa.Vo.林束紗の男女ツインボーカルが売りのバンドだが、このアルバム以降は林束紗をメインボーカルに据え、女性ボーカルを活かしたポップでメロディアスな楽曲が増加している。このポップ路線の完成形となるのが次作”Addicted To Love”なのであるが、こちらのアルバムは00年代ジャパニーズオルタナ特有の空気感が次作よりも出ており、これはこれでたまらない。BaとDrがアグレッシヴに弾き倒し、その上にゆらゆらと煌めくギターが載り、トータルでは優しく切なく、心地よい。そんなアルバムである。Yo La Tengoや後期CONDOR44っぽさも感じるか。
のっけから00年代オルタナ全開な#1「Reflect」。キラキラしたアルペジオと抜き差しの効いた骨太なリズム隊が滝のようなセンチメントを溢れさせる。そして林束紗の儚く透き通った歌声がさらなるセンチメントを煽る。切なさはそのままに爽快さすら感じさせるサビも良い。「思い出して/三年前はどうだったこんな未来を想像した?」「君から僕を照らしたってこと忘れてるんだろう?」なんて歌詞も、明け透けだけど心を揺さぶられる。。#2「Dance to the tune」は随所で現れる轟音ギターがアドレナリンを暴発させるようなダンスナンバー。歌詞もダンスを軸につつも、『なんていうか本当は傷つくのが怖い/「幸せ」だとか「それ守る」とかでも「失くす」とか/忘れたいのに』と言った感傷的なキラーフレーズがバシバシと決まるエモーショナルな出来である。ポジティブではないダンスチューンとしてBase Ball Bear「Tabibito in the Dark」に通ずるところも個人的には感じた。
夕暮れ時を想起させる柔らかく切ないベースフレーズが始まる#3「movie」。前二曲とは違いゆったりとして美しい楽曲で、こういったゆっくりとした楽曲こそ彼らの真骨頂であったりもする。浮遊感のあるギターが揺らめき、そこに添うベースは歪んでアグレッシブに弾き倒している……にも関わらずその浮遊感が全く損なわれない、むしろ浮遊感を強固にしているような感じさえある、こういうベースが弾けるのが林束紗なのだ。この楽曲はGt.Vo.橋本洋介のパートもありツインボーカルの美しさが存分に発揮されている。Cメロのコーラスワークの素晴らしさなんか、もはやここでアルバムが終わってもいいぐらいである……。
続く#4「青く高く」はGt.Vo.橋本がメインをとる楽曲であり、橋本の甘い歌声の裏に潜んだ攻撃性がカッコいい楽曲に仕上がっている。Ba.林はもちろんアグレッシヴで、Dr.宗本もエモーショナルな疾走を見せる。完璧なバンドアンサンブルである。#5「Come on Come on」は#2とはまた違ったダンサブルさを見せる楽曲で、開けた爽やかさを感じさせるアンサンブルながら、橋本の柔らかな歌声にはある種の内省的さを感じられるのが彼ららしいか。#6「AM 6:49」は本当に爽やかな仕上がりで、アルバムの中盤での箸休めのような趣もあるか。「夏の前の静かすぎる海へ行こう/なんとなく願いが叶いそうな気がしたんだ」なんて歌詞も素敵。#7「Life」は伸びやかで幸福感を感じさせるメロディラインが心地よい一曲。#9「夢の続き」はシンプルなベースラインで聴かせる楽曲。夜明けや夕暮れ時に訪れるあの透明で気だるくて感傷的な時間が克明に描かれている。2回目のサビでハッとさせる展開が見事。
爽快感があるのは#1、#2、#6ぐらいで、基本的にはミドルテンポでメロウにじわじわとエモーションを煽ってくるアルバム。オルタナティヴさにおけるSCARLETの終着点と行っていいかもしれない。スルメな曲が多いアルバムではあるが、最初2曲で掴まれているうちにきっと全部好きになっているはずだ。