disc review生臭い月夜に忍び寄る、破壊と生命の旋律
H.A.Q.Q.Liturgy
一聴して判別のつかない音楽と非音楽の境目。そこに邪教崇拝的禍々しさを秘めながらも、深きものが来たるように這い寄る荘厳なノイズとスクリームの雨。deafheavenと並び称されるBlackgazeの最右翼、Liturgyの2019年作。僕がもし2019年にこのアルバムを聴いていたのであれば、年間ベストに間違いなく入れていたであろう、とにかく破壊的で美しい作品。
電子的なノイズに支配された空間の中にギリギリ生物的な有機性を持って存在するドラムとギター、そしてスクリーム。拍子という概念をのっけから持ち合わせていないような、数小節ごとの展開をつなぎ合わせたいびつな音像。そしてそれらの背景に横たわる賛美歌的コーラスの雨と静けさを司るピアノ。静と動というよりももっと破壊的な、生と死とも捉えられるような、刹那の燦めきと破壊が繰り返される様は明らかに聴き手を選ぶ音像なのだが、そこに何かしら拓けた風景を描き出してしまう人間はきっと一定層いるのだろう。僕もそんな一人で脳がチカチカ焼ける感覚を味わいながら、この宗教的な音響に深く入り込んでしまった。
その禍々しさと荘厳さの境目にあるエモーショナルを色濃く感じ取れるのが、#3 “VIRGINITY”と#4 “PASAQALIA”。蠱惑的なハープの音色を引き裂くようなトレモロギターで幕を開ける#3 “VIRGINITY”はスクリームと声にならない何かの叫びがねじり上がりながらカタルシスに高めていくような曲構成は賛美歌にも思えるほどに神々しく、それだけにここから繋ぐ#4 “PASAQALIA”の冒頭の可愛らしげなオルゴール調のイントロの落差に高められたカタルシスが解放された時の気持ち良さが素晴らしい。#4 “PASAQALIA”は激情系ハードコアを思わせる扇情的な刻みのギターが印象的で、青黒い海を割るような力強さのままに哀愁を撒き散らし、その様は欧州のハードコアの男臭さを思い出させる。
日本人の音楽好きはもしかしたらLiturgyを聴いた時に思いも寄らない類似性をとある音楽に見つけるかもしれない。それはHASAMI groupだ。
酷く歪んだ電子楽器と胡乱なボーカル、類似性がそれだけだと言われればそれまでだし、実際音楽としての成り立ちの精神性やジャンル性にも特に繋がりがあるわけではないだろう。だが、耳にした時の点と点が繋がった感覚は一つの結果として大事にするべきなのではないかと思い、蛇足ながらこうして付け足してみた。こういった未知の音の波の中に自分の知っているものを見つけて親しみの落とし所を見つけ、その音楽を好きになっていく。音楽の見識とはそうして広がっていくように思うし、そうでもしないと触れられない音楽の美しさは世に溢れているのだ。