disc review譲り手のないピンク色のトカレフは何に銃口を向けるか

tomohiro

トカレフ大森靖子 & THE ピンクトカレフ

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単独の弾き語りでの各フェスへの出演や、その鮮烈でギラついた刺々しい感性を武器に、J-POP業界へ殴り込みをかける女性シンガーソングライター、大森靖子。そんな彼女が長く連れ添ったバンドスタイルでの共演メンバー、THE ピンクトカレフとともに、大森靖子 & THE ピンクトカレフ名義でリリースした唯一の音源。大森靖子のピーキーで情動的なライブスタイルを支える彼らは、太平洋不知火楽団うみのて壊れかけのテープレコーダーズ川畑兄弟など、日本のアングラなオルタナ、サイケ、ニューウェイブ界隈を周辺に活躍するバンド達から集まったなんとも豪華な顔ぶれである。そんな彼らが演奏する音楽は、全然スマートじゃないし、ドタバタしてるし、ノスタルジックだし、とにかく生々しくて、それがかっこいい。どこか漂う歌謡的な物寂しさは、大森靖子の音楽の毒々しいポップセンスにすら立ちはだかり、そんなバンドの中で歌う彼女のスタイルは、またソロの時とは違った新しい立ち位置を獲得している。

 

いきなりやりすぎなツインリード+ハモりで幕を開けるかと思えば、その歌詞はなんともセンチメンタルでズブズブと心臓をナイフで突き刺す#1 “hayatochiri”、壮大なバラードで涙声に歌う、#2 “ワンダフルワールドエンド”、清涼感のある演奏とウィスパーな歌い方がサブカルロマンチックを演出する#6 “料理長の音楽は豚肉の焼ける音だった”、ヒリヒリとしたアルペジオから1サビ後のエモーショナルで芝居がかった演奏に憂いのかかったコーラスまで、バンドメンバーの熱演が光る名アレンジの#8 “Over The Party”など、トカレフオリジナルの楽曲では弾け飛び縦横無尽に暴れまくる姿と、自身の曲のアレンジではその曲の新しい美味しさを披露してくれる大森靖子を語るに外せない名盤である。

そんな中、ラストに収録される、2011年に逝去したフォークシンガー、加地等のカバー、”これで終わりにしたい”には、彼女の加地等というシンガーへの真摯な尊敬の念が現れており、彼女の個人的な部分が強く出た収録だと言えるだろう。(”トカレフ”というタイトルは加地等の”これで終わりにしたい”が収録されたアルバムと同名である。)

また、大森靖子と来来来チームによる70年代サイケ、ニューウェイブ色の強いアレンジ、ソロ音源”絶対少女”に収録された、直枝政広によるテクノ色強いエレクトロチューンという2種類の毛色の違うアレンジでのリリースを経て、最もプリミティブかつ、歌に寄り添うバンド演奏という、快活な傑作として3回目の生まれ変わりを果たした(ギターソロがあまりにズルい)”ミッドナイト清純異性交遊”は必聴である。

 

大森靖子 & THE ピンクトカレフはアルバムリリースに先駆け、大森靖子自身の手によって幕が降ろされてしまったが、「君の好きなことが君にしかできないことだよ」とは、彼女の言葉であり、彼女が彼女であり続け、大きな舞台に立ち続けるためには、地下に住処を置く彼らとはいつか別れなければいけなかったのだろう。

 

欲を言うならばもう一度、ライブが見たいとは思ってしまうが。

 

hayatochiri

 

Over The Party

 

最終公演


 

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tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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