disc review選ばれなかった永遠と、進む道の先の永遠へ捧ぐ

tomohiro

Jargon E.PMAGI SCENE

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歌われる澄んだ風景と等倍で描き出される感情が、無理なく聞き手の感傷を引き出す、オルタナティブ・ロックバンド、MAGI SCENEの2012年発の初となる正式な音源。00年代後半から10年代前半的な歌モノの形式をとりながらも、その根源には、Death Cab For CutieThe Velvet TeenLowLast Days Of Aprilに語られるようなインディーロック、サッドコア、北欧エモなどのセンシティブさが確かにあって、深くしっかりと根を張った上に立つような大きな心地よさ、深呼吸するような穏やかさと、引けばほどけてしまうような危うさを感じさせる。

変則チューニングを使った、響きを生かしながら淡々と爪弾かれるバッキングと、深く歪んだノイジーなギター、時にメロディアスに楽曲に花を添えつつ、低くうねるベースに、バシャッとしたガレージライクな音作りが生々しさを強調するドラムによって描き出される個々の感情はVo/Gt. 石井の朴訥で横柄、しかし澄んだ響きの歌によってまとめ上げられる。

 

タイトルトラックとなる#1 “Jargon”は、”たわごと”と訳されるタイトルの通り、感情の不完全さ、間違いによって初めて気づかされる見えなかったモノを、「もしも、君が心変わりをするのならば、僕の最後の日であれ。」と繰り返しながら、あくまでも独り言として自己解決的に歌う。#2 “Halley”では、冒頭の「10年に一人の逸材が、毎年生まれる運命に僕は翻弄されている。」という歌詞が印象的だ。#3 “Rayleigh”ではグロッケンやキーボードによる演奏も加えたインディー色の強い楽曲であり、スローに蕩々と青く染まった視界がキャンバスに描き出される。#4 “Southpaw”はe.p.屈指のエモーショナルさを誇り、静たるAメロと動の極まるサビの繰り返しが胸を締め付ける。

 

2015年5月2日をもって、ライブ活動の休止を発表しており、現在はその歌をライブで聴くことはできない。石井は自身のブログでライブ活動の休止によせて、繰り返し、活動を続ける中で訪れた生活と心境の外因的変化による葛藤を綴っており、”生活感”への回帰を望んだ。おそらくそういった感情は彼がずっと膨らませてきたもので、そういった飾らない等身大であった精神性が、大きくなく小さくもない楽曲たちを生み出し、多くの人を惹きつけてきたのだろう。

石井は、「永遠はいつも選ばなかった道の先に確かにあった。」と歌った。それは自身の後悔の連続を表すようでいて、未だに次の光を探して苦悩し、歩き続ける自分の姿を愛していたようにも思える。再び、彼らがステージに立つ日は彼らの選ぶ道の先にあるはずだと、信じている。

 

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WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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