disc reviewジャパニーズエモにおける稀代の突然変異、褪せない名作
As Meias ⅡAs Meias
近年のジャパニーズエモ、ポストハードコアを代表する完全な意欲作であり、唯一無二の輝きを放つ傑作。エモに起きた突然変異、As Meiasの最高傑作、2ndアルバム。どこまでも果てのない晴天のような澄み切った美声は、ex. Bluebeardの高橋。さらに他のメンバーも、Z, ex. There Is A Light That Never Goes Outの魚頭、Naht, ex. Nine Days Wonderの羽田、Daiei Spray, ex. Kularaの塚本と、日本におけるエモ、ポストハードコア、激情シーンの重鎮のオールスターのような贅沢な構成だ。
ボーカルから漂う空気感は、間違いなく90’sエモのそれであり、青臭く、切ない。MineralやSunny Day Real Estate、Jimmy Eat Worldのそれをリアルとして肌で感じてきたからこそ出る青さだろう。すでにボーカルの素晴らしさの時点で名作必至、これにいかなる演奏が加わろうとも間違いなく素晴らしいのだが、演奏のスタイルは完全にボーカルから漂うエモの空気感を裏切る。音像こそ、乾いたザックリとした歪みを特徴としたFailureやShinnerなどのグランジエモ、または日本におけるDoimoiのそれであり、これも彼らが生きた時代の音楽を象徴しているようであるが、演奏スタイルはプログレッシヴに尽きる。それは完全にProgressive Metalバンドであり、のちにdjentという一大ジャンルを生み出すに貢献するバンド、Meshuggahなのだ。
Meshuggahはスウェーデン出身のメタルバンドであり、その構築美すら感じるスローテンポ、ポリリズム、シンコペーションの多用による曲調の複雑化によって完全なるオリジナリティを生み出した。7弦、もしくは8弦ギターを用いた重低音とドラムフレーズがまるで機械のように規則的にアトランダムに鳴り続ける中、野獣のように叫ぶボーカル、突如現れるフュージョンメタル的浮遊感のギターソロがリスナーを悟りの境地へと導く。
もちろんAs Meiasには浮遊感のあるギターソロも登場しないし、多弦ギターも用いない。だが、確実に聞いた人間はそれとわかる共通項を持っている。それが”スローテンポ、ポリリズム、シンコペーションの多用による曲調の複雑化”である。素晴らしいことはこの方法論が、メタルの畑で行われているのではなく、エモ、グランジで行われていることだ。こんな実験を高次元の作品として産み落とされることになるとは、まさか誰も予想だにしなかっただろう。Vo/Gt.の高橋は、全く対極のモノの融合と、決してリスナーを置いていかないように、キャッチーでもあり続けることを自身のバンドにおけるキーとして語っている。まさにこの2つの理念はこの作品において100点満点の結実をしており、この作品を今後、10年、20年経っても褪せぬオリジナリティへと到達させた。そういった意味では彼らは、かつての90’sエモのバンド達と同じ境地に至ったと言えるかもしれない。
作曲スタイルは完全な、曲が先歌メロを後付けすると言う形に徹底されており、それが楽器陣の高次元なアンサンブルを成立させている。このバンドにおいてリズムを支えるのは2本のギターとベースである。では楽曲に華を添えているのは何か?それは前述した爽快な歌とリズムから完全に遊離したドラムなのだ。ドラムのフレーズの秀逸さは、一聴すると普通に聴けてしまうのだが、よくよくしっかり聞いてみると”完全に何をしているのか分からない”ところにる。おそらく塚本の中では規則的なメトロノームが鳴っているのだろうが、あるいは食い、あるいは溜め、あるいは抜くことを繰り返す中で、彼のドラムは最低限の骨格だけを維持した別次元のモノへと進化している。これは、もはや始祖鳥の骨格だけを残して、再び肉をつけたらワシになっていたようなレベルの進化である。そんな彼のドラミングの素晴らしさは全曲に渡って聞くことができるが、中でも、#4 “DISAPPEAR”のAメロにおける4拍子でのスネアの入れ方が素晴らしい。全ドラマーに聞いてほしい。また、ラストトラックである#5 “INSTANT”ではスローテンポかつクリーンという優しい音像でありながら、やはりドラムはやりたい放題でAs Meiasらしさを失わない。
また、このバンドはBluebeardから始まって、のちのOSRUMへと繋がる流れの中にあることも、重要な点であり、日本のエモを追う上で非常に大切な場所に属するバンドだ。一作目である”As Meias”はより荒削りで、スタイルも模索の途中であり、Bluebeardのエバーグリーンなエモの空気を引いており、逆に三作目、”As Meias Ⅲ”は日本語詞、8分の曲一曲のみという実験作であり、これはのちのOSRUMへと繋がる。そんな2作に挟まれて、最もAs Meiasであった今作、ぜひ全ての歌モノとエモを愛する人の耳へと届いてほしい。
名曲AROUSEのデモ音源。この時点ではドラムプレイは完全にMeshuggah。
おそらくAs Meias ⅡではなくEP音源だが、こちらはバンド版。ドラムの変容に注目。