disc review覚醒的煌めき、閉鎖的に完結する叙事詩、波及し続ける残響音

tomohiro

Dust and DisquietCaspian

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Explosions In The Sky, God Is an Astronaut, This Will Destroy Youといったアンビエントポストロックと共鳴、競合するようにして、その音像を展開していたアメリカはマサチューセッツのポストロックバンド、Caspian。前述したバンドたちのように、良質なアンビエントサウンドを奏でながらも、頭一つ抜けない印象のあるバンドだったが、今作、”Dust and Disquiet”において、完全にそれらのしがらみを振り切るようなアンビエントかつ叙情的、エモーショナルなCaspianとしてのオリジナリティを確立させた。

 

今作に至るにあたり、今までの5人編成から、ベーシストの死を経験し、新たに二人のメンバーを加え6人編成となる文字通りの転換期を越えた彼らの表現力は格段に上昇し、時にPelicanMogwai, Toolのような重金属的な展開を持ち出したり、ストリングスでのオーケストラライクなセッションもうまく活用することで、この手のバンドを聴く時にどうしても感じがちだった、「沸騰の一歩手前で火を止める」ような歯がゆい感覚を感じさせない、実に壮大な美麗ポストロックを生み出した。そういった作風の変化は、”沸騰しない”ポストロックを好む人たちにはどう映ったのか定かではないが、少なくとも自分は今までのCaspianのイメージを完全に払拭する、冷水を浴びせられたような覚醒感を感じ、彼らの音楽で初めて音源を購入した。

彼らの結成当時の共通であった音楽の趣味として、Sigur Ros, Massive Attack, Tool, Mono, Isis等を挙げており、結成当初から非常に音楽性について明快なコンセンサスを得ていた彼らだが、2003年の結成から10と2年を経てリリースされたこのアルバムは、まさに、そういった彼らのルーツを10年超の経験によってうまく消化し、まとめ上げたまごう事なき傑作だと言える。

アコースティックギターの弦鳴りとエレキギターの柔らかなフレーズがストリングスによって味付けされ、調和する、#1 “Separation No. 2″から、主題を引き継ぎつつ、広く、深く展開していく、#2 “R’oseco”。一転し、メタリックなフレーズと早いBPMで焦燥を煽る、ポストメタル的アプローチの#3 “Arcs of Command”では、曲の頭から繰り返され続けるメインリフを飲み込むようにして周囲から襲う轟音が頭上で炸裂する、現在のCaspianを表す象徴的な曲だ。また、続く#4 “Echo and Abyss”では、重厚なリフに重なるようにして、シャウトに近いようなボーカルが入る様が、IsisToolリスペクトを感じさせる。インストバンドである(という認識の)彼らだが、#5 “Run Dry”でもしっかりとボーカルが入っており、こちらでは、アコースティックギターの弾き語りスタイルで、ドライで乾いた歌声の十二分な歌心をのぞかせる。この後は#7 “Sad Heart of Mine”で定型文的な美麗、多幸感な良質の音楽が癒しを与え、インターバル的に数曲を挟んだ上で、大団円となる#10 “Dust and Disquiet”で、寂寥と耽美を存分に味わえる有終の美を迎える。

 

ストリングスや、パーカッション、溢れるノイズといった情報過多な音像にピッチの揺れた不安定なクリーントーンのまろやかなギターが重なる様は、大海に揺られる小舟のようで、実に儚げだが、その儚さが美しい。間違いなく2015年のポストロックにおける重要作なので、ぜひ、ポストロックのリスナーはチェックしてほしい。

Caspianは出身のマサチューセッツ州、ペパリーから、結成10周年の記念すべき日、2014年10月18日に”Caspian Day”を制定され、市のホールで2時間にわたる演奏をソールドアウトで終えた。こういった音楽がこれほどまでに一般社会に浸透するのは、日本ではちょっと想像できないことで、少々羨ましく思った。

 

amazonでも買えますが、購入はぜひstiffslackから。素晴らしいレコードショップの一助となってくれれば幸いです。

 

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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