disc review情念を紡いだ弦から零れ出す、思想家のポストロック

shijun

無響室sable antelope

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名古屋を中心に活動する男女混声スリーピースバンド、sable antelopeの1st demo。音楽性としてはポストロック。といってもテクニック偏重では無く、楽曲ごとに確固とした雰囲気、世界観を描き出す、表現重視のポストロックと言えるだろう。女Vo.は透明感たっぷり、男Vo.は粘っこいエモーショナルさを持っており、その特徴的な声も世界観の形成に一役買っている。メロディラインはこの手のバンドにしては歌謡曲、あるいはJ-POP寄りであり、歌メロだけでも楽しめるクオリティになっている。

男性Vo.をメインにエモーショナルに展開していく#1「冷夏」。少し和風な要素を持たせつつエモーショナルを掻き立てるメロディラインが素晴らしい。その裏で動き回るベースも心地よい。ガラッと雰囲気を変えてノイジーに暴れまわるギターの聴けるギターソロも強烈で、緊迫と緩和、そして更なる緊迫を生み出すその周辺の展開は圧巻。ポストロックらしく細かいリズムのフィルも随所で聞け技巧派のリスナーも満足できるだろう。タイトル曲でもある#2「無響室」。前曲では顔を出さなかった女性Vo.も顔を出し、現代J-POP的哀愁メロディを透き通った声の女性が歌うAメロと、エモ風のメロディをねっとりと男性が歌うサビ部分との対比が鮮やか。美しく紡ぎ出されていたギターフレーズが少しずつエモーショナルに成っていく展開も素晴らしい。明るいフレーズからはじまる#3「見えるものと見えないもの」は、女性Vo.をメインとした軽快な楽曲。ぐっと分かりやすいキメも登場し、前二曲までのシリアスな雰囲気から比べるとポップな印象を受けるか。しかし軽快な中にもどこか倦怠感もあり、湧き上がるようなエモーショナルではなく、虚しく滲み出すようなエモーショナルが存在し、そこがこの曲の心地良さである。

全てのフレーズが楽曲の為に必然的に存在しており、音像など完全にエモ寄りのポストロックでありながら、J-POPとしても通用するような説得力が確かに存在している。ポストロックを目標、終着点とするのではなく、ポストロックを楽曲の完成度を強固にする手段として楽曲を組み立てているような、そんなバンドだと思われる。ポストロックに苦手意識を持っている人でも、きっと楽しめるバンドな筈だ。勿論、ポストロック好きにも聴き応えのある展開が用意されているので、ポストロックを愛する人にも是非手に取っていただきたい一枚である。ちなみにジャケット画像は公式HPからの引用であるが、現在は便箋(これがまた非常に良い出来)に入れられて販売されており、視覚でも楽しめる一枚。

 

WRITER

shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

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