disc review90’sエモ通過型ポストハードコアの一つの到達点たる、輝く一番星
Pleasant LivingTiny Moving Parts
アメリカはミネソタのスリーピース、エモリバイバルTiny Moving Parts。近々3rdアルバムのリリースを控え、そちらでは今までのような終始テクニカルに展開するアルペジオや各パートの絡みは少しなりを潜め、90’sエモに見られた荒く、青臭くかき鳴らす歪んだコードがボーカルのエモーショナルさに拍車をかける。
MV自体も人生が残り1日だったとしたら、何をしたいか。という質問に対する各メンバーの答えを映像化したものとなっており、曲自体の持つ胸が苦しくなるメロディ運びと合わせて、見ているこちらが元気をもらうような無邪気でまっすぐな仕上がりだ。
さて、今回レビューするのは、新作ではなく、2年前にリリースされた2ndアルバムだ。1stでは、今以上に荒々しく、千変万化する変拍子満載のトリッキーな楽曲がマスロック感を感じさせる仕上がりだった。そこから2年を経て、エモリバイバルの名門レーベルである、Triple Crownからリリースされた”Pleasant Living”は、キラキラと、磨き上げられたパーティクル溢れるアルペジオ、タッピングリフが特徴的。露骨な多展開、変拍子はなりを潜めたものの、全体として、Vo/Gt. Dylanの歌う、背伸びしない等身大の歌詞と、歌うというよりも語りかけるようなボーカルスタイルを演奏で持ち上げるような構成となっており、完全に1stのインパクトをクオリティで超えてきており、名盤と呼ぶにふさわしい仕上がりだ。
何と言ってもまず驚かされるのは各々の演奏スキルの高さだろうか。
エモらしく、手数も多く、なおかつバタバタと風呂敷を広げるドラムに、ギター、ドラムの仲立ちをするようにして、楽曲の骨組みを守るベース、そして何よりも、次々飛び出す素晴らしいタッピング、アルペジオの数々を、譜割もおぼつかない激情的なボーカルのままに、完璧に弾ききる技量には舌を巻くばかり。音源だけを聞いて、3ピースを想像出来るリスナーはあまりいないだろう。これはセカンドの代表曲、”Always Focused”。流麗な楽曲とエモーショナルのボーカルの絡みの完成度も高く、そのメロディの青さに頬の緩む場面も多い名曲だ。
一方こちらは1stの収録曲、”Clouds Above My Head“。まさにマスロックと呼べる多展開を見事に弾きこなし、笑顔すらこぼすDylanのテクニックにはもはや何も言葉はいらないだろう。
これは私見だが、彼らはまごうことなき激情系バンドだと思う。
近年のenvy、あるいはWithin The Last Wishのようなバンドたちは、伝えたい自分の言葉を、力、感情を込めた暴発的で叙情的な演奏に乗せることで、感情の発露として表現し、リスナーの心をこじ開けるようにして、言葉を届けるようなスタイルを取ったのに対し、Tiny Moving Partsは楽曲自体の美麗さ、人懐っこさで、リスナーの心に飛び込み、飛び込んだうちから言葉を届けているような感じがする。Frameworksと親交が深いというのも納得であり、エモながらも、隠しきれないハードコアスピリットは、90’sエモ通過型ポストハードコアとして語るにも十分なバンドである。
一度カオティック路線を突き詰めたゆえの安定感というか、そういう雰囲気が2ndにして既ににじみ出ている。Climb The Mindの”とんちんかん”あるいは”Denaturization”から”ほぞ”への流れをたどった時と同じ感覚を感じた人もいるのではないだろうか?現エモリバイバル勢力の旗印とも呼べるモンスターバンドだ。Algernon CadwalladarやTTNG、Gulferのようなタッピングエモ好きは言うまでもなく、Crash Of RhinosやCinemechanicaのようなポストハードコア好きも一発で気に入ること請け負い。エモリバイバルの到達系の一つだと、思わせてくれるバンドだ。