disc review泣き虫ナードが放つ、2016年のブルーアルバム
CRAZY, STUPID, LOVEナードマグネット
CDをトレイに入れ、トレイを閉じる。再生ボタンを押す。ギターのハウリングが聞こえて来る。「あれ?”Tired of Sex”?」と思ったところで、疾走するベースラインの登場によって、僕の思考はナードマグネットへと帰ってきた。 今回レビューするのは、大阪発、国産パワーポップの大本命とも言えるバンド、ナードマグネットの1stフルアルバムだ。
自分はパワーポップというジャンルに詳しくはなく、ただ、Weezerが好きという偏った耳の人間なので、今回、Weezerをパワーポップの代名詞として語らせてもらうことを許してほしい。 彼らナードマグネットは、 2006年結成、今年で結成10周年を迎える活動歴の長いバンドである。10年の活動で、シングルが4枚、ミニアルバムを3枚、数枚のコンピレーション、 スプリットと、比較的マイペースに活動していた彼らだが、今回、その10年の集大成ともいうべきリリースとなったのが、1stフルアルバ ム、”CRAZY, STUPID, LOVE”だ。
彼らのサウンドを語るのであれば、やはりまず第一に、ギターサウンドのパワフルさで、 これは、僕の思うパワーポップ像の見事な具現だった。次に注目すべくは、Vo/Gt. 須田の声変わりできなかった青年のような、エッジの取れた中域の豊かなハイトーンのボーカルで、これが実に日本語で歌うパワーポップとしてマッチしてい る。(日本人のリヴァースクオモがいたらこんな感じだろうかと思ったが、これは蛇足だろうか。)
また、僕がWeezerを 好きなところは、負け犬感と諦念にあふれるルーザーマインド丸出しの後ろ向きで情けない歌詞なのだが、やはり、英語で歌っている以上、その歌詞の100% をそのまま感じ取ることは難しかった。 その点において、ナードマグネットの楽曲は、日本語で歌われており、須田の歌わんとしていることがダイレクトに伝わってくる。加えて、聞き応えのあるドラ ムプレイや、リードギターのフレーズなど、楽曲としての描き込みの多さにも、邦楽のエッセンスが詰まっているように感じられ、僕としてはこれらを総じて、 彼らを日本の(土地で育った)Weezerと呼びたいのだ。
もちろん、彼ら以外にも、日本にパワーポップと呼べるバンドは存在している。 イントロのブルーアルバム感を裏切らないギターとシンセのパワフルさが印象的なCALENDERSや、スリーピース、トリプルコーラスがグッドメロディを引き立てるbig the grape、スイートでシンプルなメロディが沁みるSuperfriendsなどがその一部としてあげられるだろうか。
そんな中でも僕がナードマグネットをプッシュしたいのは、ミドルテンポからハイテンポの楽曲まで、しっかり聴かせるだけのポップネスを持ち合わせているところ、簡単に言えば”捨て曲がない”ところだ。
今 回のフルアルバムの収録曲も、過去の音源からの再録と、新曲とのバランス感も良く、どの曲を聴いても、「今のナードマグネット」として聴ける、完成度の高 さがあり、1stアルバムにして、ベストアルバムとも言えるような密度なのだ。配信限定シングルとしてアルバムに先駆け、リリースされた#2 “C.S.L”は、”CRAZY, STUPID, LOVE”の頭文字にあたり、アルバムへの伏線となったと同時に、アルバムのリードトラックとしても十分のキラーチューンだ。#4 “チェイシング・エイミー”は裏メロを担うリードギターと歌メロ、アルペジオの絡みが気持ちいいショートチューンであり、#5 ”アフタースクール”は須田本人の「キャッチーな曲を作ってやろう」という意気込みのもと作られた曲で、特にラストサビの畳み掛けがエモーショナルだ。一 方#6 “ルーザー”はミドルテンポを生かした名の通りルーザーポップな楽曲で、アルバム全体にいい重みを掛けている。また、#9 “Mixtape”はギターオルタナを中心に名盤のジャケットを次々フィーチャーしていくMVが、自分たちもリスナーであり、キッズなんだと言ってくれて いるようで、歌詞の内容ともリンクしていてとてもいい。ここまで読んでくれたあなたも、ぜひ何種類知っているジャケットがあるか探してみよう。
ちなみに僕は変なかじり方で音楽を聴いてきたので、Dinosaur Jr., Queen, Matthew Sweet, Nirvana, Red Hot Chili Peppers, Weezerくらいしかわからなかった。 最後がブルーアルバムなのも小憎い!そして、”CRAZY, STUPID, LOVE”のジャケットの青!これもブルーアルバム! ナードマグネットのブルーアルバム!是非ご一聴を!