disc review幻想的タッチで現実を切り取る、シニカルウクレレポップ

shijun

春蜜柑つじあやの

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京都出身のウクレレシンガーソングライター、つじあやのの2001年発売の2ndフルアルバム。2002年リリースの「風になる」がジブリ映画「猫の恩返し」の主題歌となり一躍有名になった、と言えばピンと来る人も多いだろう。「とんがらし麺」や「野菜生活」など多くのCMソングを担当したり、10-FEETやTHE BACK HORN、BEAT CRUSADERSなどのロック畑の人間とのコラボなど、日本の商業音楽シーンにおいて確固たる地位を獲得している彼女が、今の地位を築くまでになった礎の一つと言える作品である。

斉藤和義「歩いて帰ろう」や大江千里「夏の決心」、他にも小沢健二、スチャダラパー、電気グルーヴ、モダンチョキチョキズからMr.Children、TRF、和田アキ子など錚々たる面子が楽曲を提供していたポンキッキーズ内の1コーナー「P-kiesメロディ」に選出された#1「君にありがとう」、#5「心は君のもとへ」。どちらぼ素朴なフォークサウンドをベースにしているものの、「君にありがとう」はサビ入りの切なさ満点のメロディや俺また泣きメロを奏でるウクレレソロが涙腺をじんわりと刺激する別れの曲である。「心は君のもとへ」では「守られていたその時まではきっとまだ戻ってくれると信じて待っていた」「うそでかためた夜の星はきっとまた離れられないと感じて泣いていた」とドキリとするような歌詞が聴ける。随所で煌びやかな言葉選びを見せつつも、彼女の視点はずっと現実的でシニカルである。これこそが、つじあやの本来の魅力であり、その後の彼女の活躍にも繋がっている部分もあるだろう。

そんなつじあやのの魅力が最もよく現れているのは。#6「虹」である。ピアノをベースにした楽曲であり、そこに控えめなドラムとウッドベース、そして仄かな灯りを付け足すウクレレと笛の音色、と言うアンサンブルの完璧さ。抑えめな抑揚ながらも心にすっと染み入るメロディと歌声。「月の影に宿った時の涙/ただひとひらの花を移していた」などと言った幻想的な儚さと「このままどこかへ消え去る背に手を振った/誰よりも君を想ってる」といった現実的な儚さが効果的に交差する歌詞。心のちょっとした隙間にすっと入ってきて、じんわりと色濃い余韻を残してくれる、隠れた名曲である。

シリアスな楽曲ばかりではない。楽しい曲調ながらサビではやはりドキッとするフレーズを聞かせてくれるポップな#2「この世の果てまで」や、ピアノをベースにしつつも軽妙なビートが楽しく「虹」とは全く違った雰囲気で聞かせてくれる#4「恋のささやき」、拍手や笑い声も現れちょっとのブレイクタイムな趣もある#7「君が待ってる」なども、また少し違ったつじあやのテイストを聞かせてくれる。その後の活躍にも納得なほどに当時から完成されたポップミュージック。ぜひ触れてみてほしい。

WRITER

shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

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