disc reviewやりきれなさを受け入れた先の幸福

shijun

ナポリタン・レモネード・ウィー アー ハッピーBUGY CRAXONE

release:

place:

1997年結成のBUGY CRAXONEが2014年にリリースした10thアルバム。初期は椎名林檎やCocco、the brilliant greenなどの文脈にも入れそうな、鬱っぽさを前面に押し出したオル タナバンドだったが、このアルバムタイトルからも読み取れる通り、すでにその面影はなく、ノリのいい楽曲が大半を占めている。楽しげなコーラスがやたらと多く、ライブ映えする楽曲達からは、結成から15年以上経ってもまだ全国のライブハウスを巡っている彼らの自負すらも感じる。

 

また、色々な方向性を経由してきたキャリアの長いバンドだけあって、ノリがいいと言っても一筋縄ではいかない。どの曲も派手さは抑えたシンプルなアンサンブルで、オルタナティヴ・ロックのクールさと音楽の本来持つハッピーさを取り合わせた至福の時間を僕たちに提供してくれる。例えば#6は切れ味鋭いギターに疾走するリズム隊と、楽曲だけならあくまでソリッドでクールだが、そこに気の抜けた一見能天気な歌詞と楽しげなコーラスが乗ることでハッピーな楽曲になっている。元のアンサンブルが強固だからこそ、安心してその幸福感に身を委ねることができるのだろう。一方で、#4のように古めかしい怪しげなリフに歌とポエトリーの境界線を彷徨うかのようなボーカルが乗る変わり種な曲もある。

 

個人的なお気に入りは#7だ。どこか物寂しさあるメロディで聞かせるミドルチューンで、能天気な言葉選びにもなかにも日々感じている不満が滲み出た、やや暗い要素も併せ持つ曲であるが、大人になって少し諦めた、あるいは吹っ切れたかのような前向きさを見せるこの曲は、アルバム全体のコンセプト上から見ても大事な曲だと思う。このテーマは表題曲である#2だったり、アルバムの先行PVとして公開された#9にも通じている。暗い楽曲ばかり作っていた時期を越えたからこそ、幸福やポジティブな感情のあり方を知っており、それを嘘臭さや押しつけがましさ無く表現できるのだろう。暗さややりきれなさを受け入れたうえで素朴に幸せを歌った10曲の楽曲たちは、単純にテンションを上げたい時にも、ちょっと疲れた気持ちを落ち着いて休めたい時にも、貴方に寄り添ってくれるはずだ。

 

 

 

 

WRITER

shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

このライターの記事を読む