disc review孤独は悲痛を吐き、悲痛が孤独を嘆く

shijun

アザレア皐月

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日本の歌手、皐月の1st Maxi Single。絶望的な歌詞と確かな歌唱力を持つも何処か後ろ向きな歌唱が特徴的である。所属するAtoNO Recordsはゴスペルのボーカルスクールを兼ねている様で、インディーズアーティストとしてはかなり確かな歌唱力を感じさせる。特に音の伸ばし方に顕著か。打ち込みが多用されており、どこか虚しいキラキラ感を醸し出すサウンドは楽曲に合っており、ボーカルの持つ独特の雰囲気を助長させている。ややMixが荒く感じるのは御愛嬌。

力強くもどこか感情の虚ろさを孕んでいる#1「無力」。鬼束ちひろなどに近いものも感じるか。「あなた」に向けて届かないであろう言葉を吐き続ける歌詞はどこまでも絶望的で、音数は多いのに冷たく無機質なオケも含めて救いが無さすぎる一曲。語り掛けるような歌詞に反して人を寄せ付けない雰囲気は圧巻である。#2「ふたりぼっち」は前曲に比べれば幾分か歌唱が優しくなり、サウンドにもやや暖かみが刺す。前曲では雰囲気に呑まれてしまった人も、この曲では純粋に良いメロディと歌声を堪能できるだろう。とはいえ繊細さが表れている歌詞はやはり物悲しく、この楽曲もまた明るいものではない。#3「コトウニサクハナ」は音数多めのJ-POPサウンド。サビのエモーショナルな展開には歌唱力も相まって吸い込まれそうになる圧倒的な力がある。歌詞は孤独感劣等感を滲ませつつも、親に対する愛情を歌ったもので柔らかめ。「じゃんけんしようよ/僕が負けてあげるよ」という耳に残るキラーフレーズもある。

このシングルを聴く限りでは彼女は、1990年代後半~2000年代前半によく見られた暗いJ-POP女性シンガーの系譜にあるアーティストであると言えるだろう。暗めでありながら雰囲気こそ統一されているもののバラエティ豊かな楽曲もJ-POP的である。とは言え、それだけならばもっと高いクオリティの楽曲を、高い歌唱力でプレイしているシンガーはいくらでもいる。彼女が持っていて第一線で活躍している女性シンガーたちに無いものは、メジャーシーンでは憚られるほどの深く剥き出しな絶望である。特に#1「無力」の全てを拒絶するような雰囲気は他に類を見ない。若さゆえの衝動と救いの無さを孕んだJ-POP、是非体感してみてほしい。尚、彼女はこのアルバムで魅せた絶望的路線からは若干離れつつも、2015年現在もアーティスト活動を続けているようだ。

WRITER

shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

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