disc review緩やかに落ちていく影と、黄金色の日々へ
Light Upon The LakeWhitney
2015年、僕の聞いた音楽の中で、最も午後の暖かい日差し、セピア色の郷愁にふさわしい一枚は、CARDの”LUCKY ME”であった。明けた2016年、僕の微睡みに穏やかな暖色を差した一枚は、間違いなくこの一枚。Whitneyの”Light Upon The Lake”である。
元Unknown Mortal Orchestra、Smith Westernsの2名を中心に結成されたインディーロックバンドであるWhitney。初作である”Light Upon The Lake”にして、僕らからすれば親世代の、ポップスを聴いているような懐かしさを感じさせる柔らかさを紡ぐ音楽であり、正直貧困な語彙力では適切な感想を述べることができない。ただただ「良い」の集約であるような、そんなバンドなのだ。
アルバムの冒頭を飾るのは、”No Woman”。角の擦り落とされた柔らかなキーボードのフレーズと、ホーンセクションの目の明く音使い。繰り返されるギターフレーズとストリングスの重なりはボーカルの線の細いメロディを濃厚に色付けする。ピッチフォークから激賞を持って迎え入れられたのも納得のいく一曲だ。
僕が最もおすすめするのは、#3 “Golden Days”。もはや曲名からいかなる楽曲か感じ取れるこの曲、2016年のベスト名は体を表すイントロに挙げてもいいくらいGolden Daysすぎるイントロがもう最高で言うことはない。
今もこうしてレビューするために聞き直しているが、すでに涙腺がかなりギリギリだ。ホーンセクションと一緒にNanana…をシンガロングするアウトロに至る頃には、聞く皆々の眩しかった日々が脳裏に去来するのではないだろうか。
#4 “Dave’s Song” は生音っぽい輪郭の緩んだベースラインと軽やかに絡むアコースティックギターの下降フレーズが、楽曲の血色を良くする。
#6 “No Matter Where We Go”も、お気に入りのトラックの一つだ。軽やかなリズムと、Bメロからサビへの必然性に満ちた進行、サビの清涼感とグイッと存在感を増すベースフレーズ。2番Aメロのギターフレーズが、キテレツ大百科のはじめてのチュウっぽいのも馴染み良い点だろうか。(どれくらいの人が納得してくれるかわからないが。)
愛の営みが暖かく切り出されるMVも魅力的だ。
アルバムの終盤、夜の帳も降りようとするようなそんな頃に、キラリとした魅力を持っているのが、#9 “Polly”。
オルガンフレーズとミックスボイスの甘いハーモニーがしっとりとした空気の冷たさを暖かい暖炉のそばの窓から感じるような一曲だ。
アルバムから数曲ピックアップしての紹介だったが、是非、このバンドの魅力を感じ取って欲しい。レコードやカセットテープで聞いたら、それはもう最高である。