disc review薄墨を流す空模様に、群青の切れ間を待つ
Life Without SoundCloud Nothings
Cloud Nothings、キャリア4枚目となるアルバム。僕は彼らの音楽を聴くのは2ndアルバム『Attack On Memory』以来で、実は3rdアルバムに関してはスルーしてしまっている。2ndを聞いた時の彼らの印象は、初期衝動性と、駆け抜けるような青春を表しながらも、その青春には常に仄暗い影を感じるような、ナードな仕上がりのインディ・ロックといった印象だった。その中でも”Wasted Days”は、9分に届かんとする演奏のバーストと歌詞から感じられるほのかな人生への疲労が非常に感情に揺さぶりをかけてくる名曲であったと思っている。
そういったイメージを持って触れた彼らの最新作は、今まで以上にセンシティブなものだった。冒頭の”Up to the Surface”はこのアルバムのそういった印象を強く深めるトラックだろう。冷たいピアノアルペジオに寄り添うようにして紡がれる歌詞には、生命と精神の夜明け、誕生を歌い、それを表す言葉の群れはとても乾いていて無常だ。時折挟まれる変に甘くて幸せなフレージングや歪んだギターの生み出す渦は精神の揺れに呼応しているようで、とても悲しい響きを感じてしまう。そして、なんとも悲惨な幕開けとともに続くトラック#2 “Things Are Right With You”や #3 “Internal World”は躁鬱の躁とでも言えるようなキャッチーでパワーポップのような瑞々しさを纏う。しかしながら多くのパワーポップがそうであったように、内向的でナイーブな詞が紡がれ、特に#3でのサビの「I’m not the one who’s always right」の繰り返しは自分への言い聞かせ、自問自答としてのそれであり、そこにはやはり鬱蒼とした感情の立ち込みが感じられる。そこからさらに進んで#4 “Darkened Rings”、#5 “Enter Eternity”はUSオルタナ色強い乾いたサウンドとboredな歌声の質感が初期の粗暴な雰囲気を纏っていた彼らを想起させる。
折り返しとなる#6 “Modern Art”なのだが、これがまたあまりの豹変っぷりに並行してしまうほどのポップナンバーで困ってしまう。Bメロの作り方やサビへの持ち上げ方には完全に意識を持って行っている方法論の踏襲があり、これは確信犯めいた一曲だろう。そしてローファイでノイジーなアップテンポの#7, #8を超え、ラストトラックの#9 “Realize My Fate”に漂う不穏な揺らめきに至る。Vo/Gt. Dylanの特徴的なシャウトギリギリ未満のナイーブなしゃがれ声は聴く者を圧倒するような鬼気迫る何かがあり、これだけ色々アルバムの中で表情を変えてきながら、最後の最後でそんなに苦しい顔をしなくてもいいのではないかと問いたくなるほどに、悲痛を帯びたギターノイズとともに幕を引く。
彼らの音楽は、passion pitに感じるような、音楽の表し方としての完成形とそこに刻まれる精神性の脆さのギャップに惹かれるものだと思っている。初期衝動に任せていたあの頃から、こうして衝動性をキープしながらもより形としての音楽に深みが増してきた彼らの最新作、思っている以上に内省的でつらいアルバムなので、気持ちを落ち着けてきいてみてほしい。