disc review生き急ぐ若者たちのギターポップ・サウンドトラック
cinematicwaffles
2001年結成の日本のピアノ入りギターポップバンド、wafflesの2003年のフルアルバム。J-POP的な切り口の広さとグッドメロディに、透明感のある歌声。優しく暖かい空気感の中に光る瑞々しい切なさ。特にバンド結成初期の作品であるこのアルバムにはその若さゆえの不安定な煌めき、生き急ぎ感が全面的に現れているたまらなくエモーショナルな1枚となっている。
電子音やストリングスも取り入れた、都会的なスピード感を放つ#1「Need You」。Vo.kyoko onoの泣きそうな歌声が「誰の声も聞きたくない」なんてややささくれ立った歌詞ともマッチする。#2「船に乗ろう」はネオアコっぽいミドルテンポの優しい曲。ポジティブな空気感もありつつ、「どんな大きな海原もいつか旅してしまうのだろうか」なんてハッとさせるフレーズを放り込んでくるのが上手い。雨だれのようなピアノが切ないフェイクジャズな#3「ふたり」。複雑なリズムがそのまま複雑な恋愛模様を描いた歌詞とリンクしている。ちょっとコミカルさも漂う柔らかいラブソング#4「春うらら」を経て、#5「たびびとより青へ」へ。若さゆえの迷いと決意を綴ったこの楽曲は、しんみりとしたAメロと、泣きそうな歌声でハイトーンに突き抜けるサビとのコントラストが美しい。サウンド面ではずっと浮遊感たっぷりながら強烈なエモーションを放つ名曲である。
センチメンタルなボサノバナンバー、#6「So Sad」。空気感的には軽めで、壮大な#5からの流れとして完璧だが、切なさは前曲異常なところも。ノスタルジックな空気感漂うソフトポップ#7「ぼくのすきなひと」。「そうぼくのすきなひとは今日~」の部分でハッとさせつつ種明かしする感じが堪らない。ウィスパーボイスが切なさを助長する#8「させて」。サビの虚しくも優しいメロディが心地よい。ポストロック的な展開からサビではけたたましい金物が場を支配する轟音サウンドに変化する#9「ねこ」。#10「夢茜」は夢見ることの不安さを含んだ煌めきを、夕暮れのほんのりとした切なさと重ねて描いた楽曲。「風の日は魔法が使えるのよ」「ぼろっ切れの勇気で何度も街を祟ってきたよ/叶わなかった夢があっても胸を張れると思った」などのキラーフレーズもビシビシと決まる。最後は優しいメロディが光る#11「ある夜」で締め。
Vo. Kyoko onoの歌声の表現力が素晴らしく、泣きそうな声から包み込むような優しい声、消え入りそうなウィスパーボイスなどを使いこなし曲の世界観を強固なものにしている。あの松本隆も絶賛した歌詞や豊富なアレンジの引き出しもあいまって一曲一曲がそれぞれの輝きを放っている一枚に仕上がっている。ぜひ手に取ってみてほしい。