disc review卓上のテープレコーダーから溢れ出す音、音の洪水と言葉

tomohiro

YomosueSACOYANS

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一聴してまずは飛び込んでくる割れんばかりの爆音。SACOYANSは現福岡在住のシンガーソングライター、SACOYANが周りの人間を集め、その名の通りの徒党を組んで結成したバンドである。彼女の音楽家としての活動歴は長く、弾き語りの形でYoutube、ニコニコ動画などに次々と音楽を投稿し、インターネット音楽の一角の中ですでにその存在感は大きなものだった。この辺りの歴史は詳しく書かれているブログがあるのでそちらを参照いただくと良いかと思う。(sacoyanの歴史|パルメザブログ)このような記事が書かれていることも、彼女の人気に何かヒーローめいた、カルトめいたものがあったことの裏付けだろう。

さて、彼女の弾き語りのスタイルはエネルギーと衝動に満ち溢れたもので、歪みきったギターをかき鳴らしたワントラックにボーカルを重ねるという、初期衝動スタイルに突き進んでおり、バンドとして発表されたSACOYANSのバンドサウンドでも、そのうるささ、疾走感、眩しさはそのままに遺憾無く発揮されている。歪みきったミドルテンポの#1 “偉大なお告げ”の腹にずしっとくるような感覚から、脇目も振らず突っ走る#2 “音楽の天才”と、ジューシーな音の壁に圧倒されるところからがSACOYANSのアルバムの始まり。

「音楽の天才」を自称する彼女にとって、もはや作曲は産みの行為ではなく、息を吐くように、食事をするようにして自然と行われるものなのではないだろうか。今思いついたギターとメロディに、日々の頭の中の由無しを転写したような、ナマさに溢れた彼女の音楽には、ためらいや迷いはないように見え、「良い曲を作る」とか、「趣向を凝らしたサウンドを作る」とか、そういう意思以上に先行する「今この状態を音楽にする」というエネルギーがあるように感じる。

彼女のかき鳴らすギターには、90年代オルタナティブの、クローゼットの奥、埃かぶった地下室、土煙のガレージのざらつきがありながらも、時折覗くメランコリックさがあり、その一面が押し出されているのが#3 “ニベア”。歪んだ思いイントロと遣る瀬無いコードワークがパワーポップ節全開の#4 “わたしの窓辺”からもわかるように、彼女自身、やはりオルタナティブへの憧憬は強いものがあるのではないかと見える。

#7 “JK”は彼女のアンセム的な一曲で、古くからある楽曲だ。ほかの楽曲と比べても一段踏み込んだ哀愁のあるギターはまさに日本語詞とUSオルタナティブの和合であり、paioniaや初期のきのこ帝国CoccoLily Chou-Chouなどが好きな層の涙腺にざっくり刺さる気持ち良さがある。

宅録音楽もすでにバンド音楽と遜色なく、時にはそれ以上の華やかさを見せる現代において、ある種逆行的に宅録からバンドスタイルへ転身したSACOYANのエネルギーの詰まった本作、日々色味の薄い景色で浅い息をする人の耳に、脳に突き刺さって欲しい音楽だ。

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tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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