disc review巨星、新星の下次なる暁を目指す

tomohiro

PyramidJaga Jazzist

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北欧ジャズの旗手、ノルウェーのJaga Jazzist。まさにジャンルの代名詞たる存在感をシーンで発揮し続けてきた彼らの音楽性は、ジャズでもあり、北欧に広く横たわるポストロックの波も汲んだ、彼らなりの異彩である。長くNinja Tuneと組みリリースを続けてきた彼らの最新作が初のセルフプロデュースであり、なおかつ若き才能溢れた音楽家たちの巣窟、Brainfeederからのリリースであったことは多くのリスナーを驚かせた。2020年音楽史におけるトピックの一つとして語れるほどに、衝撃を残す出来事だったのではないだろうか。

Brainfeederを今更語るべくもないのかもしれないが、Flying Lotus率いるLAのこのレコードレーベルは、ThundercatDorian ConceptLouis Coleなど、放った俊英たちの枚挙にいとまがない。とはいえレーベルとしては若く、所属するミュージシャンも若手が中心であるBrainfeederと北欧ジャズの大御所とも取れるJaga Jazzistが組むことに驚きがついてまとうのも無理はなかったのではないだろうか。

 

Jaga Jazzistといえば、をあげるのであれば僕は”One-Armed Bandit”。

キャッチーな主題のメロディに次々と変化していく展開、変拍子はその精密な緻密さと裏腹な生々しさを不思議にも纏い、まさに彼らの代名詞的な名曲なのではないかと思う。

こういった遠大なドラマティックさ、エモーショナルさはSigur rosなどと北欧(ポストロック)の象徴として捉えられていると僕は思っていて、それゆえに彼らはジャズをプレイしながらも非常にポストロックリスナーからの人気も高い。ちなみに、アルバム『One-Armed Bandit』には、Tortoiseのジョン・マッケンタイアも関わっており、彼らのポストロック性が確かに地続きなことを証明している。

 

今作『Pyramid』は、大曲4曲からなるアルバムだ。ここまで彼らの音楽を特徴付けるものとしてあげてきたポストロック性=緻密な生々しさとは一旦線引きをし、新しい顔をのぞかせたのが今作の非常に白眉な点と言える。Brainfeederとのタッグの影響がいかほどのものかは定かでないが、確実に『Pyramid』における音像はエレクトロに肉薄しており、丁寧に薄手の生地を折り重ねていくようにして、主題のリフを上昇していく螺旋を持って昇華し、じんわりと汗をかくような高揚感を与える。チャクラを練るように内面的にフレーズを対話し、それを醸し上げていく今作は密教的な秘められた神秘性をも纏い、マントラのように聞き手の脳に作用する。

#1 “Tomita”は、日本人には耳慣れたフレーズのタイトルだが、その名の通り、日本人のシンセサイザー・アーティスト、冨田勲に捧げる楽曲である。今作全体に横たわる、電子音楽の整然性が最前面に押し出された楽曲は#4 “Apex”だろう。シンセサイザーのトランス的なリフレインが印象的なこの楽曲は、ゲームミュージックの高揚感も併せ持っている。

電子音楽の整然性を纏いながらも、ドラムのフレージングに代表されるように、各パートのプレイングには緻密な生命力が引き続き宿っており、この二つの要素が高次にまとめ上げられた結果、Jaga Jazzist流の’静的な’アッパートラックたちが生まれた、というのが今作の僕なりの解釈。目をつぶってじんわりと音に身を委ね、咀嚼していくほどに精神は高揚感を保ったままふかく沈み込んでいく。動的ではなく静的な高揚感が今作のキーワードだ。

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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