disc reviewイディオット・ガールはドリーム・ポップで衝動を鳴らす

shijun

Everything Goes WrongVivian Girls

ニューヨークはブルックリンのガールズスリーピースバンド、Vivian Girlsの2ndアルバム。サウンドはガレージ・パンク通過型ドリーム・ポップ、と言った風貌で、ガレージ・パンクの反骨精神とドリーム・ポップの持つ多幸感とが共存した楽曲が持ち味。歌も楽器も決して上手ではないがどこか癖に成る愛らしさにはアノラックの精神も感じられ、インディー・ポップ愛好家たちに愛されたバンドだったようだ。現在は残念ながら解散してしまっている。

早めのテンポ、ドッタドタのドラム、矢継ぎ早に繰り出される歌詞、若さゆえのかわいらしさを含みつつも吐き捨てるような歌い方。パンク・イディオット魂全開の初期衝動感で綴られる#1「Walking Alone at Night」、#2「I Have No Fun」。どちらも二分にも満たないところも衝動を感じさせグッド。そんな中、ノイズ吐きまくりとは言え柔らかいギターの音像にはいい意味での違和感を感じなくもない。しかしその違和感こそが心地よい。コテコテのギターフレーズから始まる#4「The Deasert」や、ギターソロ終わりの「1!2!3!4!」からの爆音にカタルシスを感じる#12「You’re My Guy」等、キャラクターを変えつつも、彼女たちの基本的なスタイルはこういった感じである。この系統の中では、多幸感とダークさの共存を高次で成し遂げている#7「The End」が個人的一押し。

ミドルテンポの#3「Can’t Get Over You」でも、基本的に彼女たちのスタイルは崩れない。やはりどこかオールドなガレージパンクの影響を感じさせる楽曲が、ドリーミーでふわふわした音像を伴って襲い掛かってくる。勢い重視のキャッチーさだけでなく、聞かせるメロディアスさも持っている点もポイントだろう。稚拙なギターソロもアノラックっぽくて楽しい。#5「Tnesion」ではさらにテンポを抑えパンク精神も潜めたローファイ・ポップを聴かせてくれる。アルバム中盤の#8「When I’m Gone」ではアナログっぽい音像に成ってみたり、#9「Out for the Sun」では二分程の長いギターソロを弾いてみたり、アルバム全体に大きな軸がありつつも、色々な音楽的工夫がされているのも素晴らしい。#10「I’m Not Asleep」ではまるで日本民謡のような怪しげなメロディとギターの掛け合いに度肝を抜かれる。

アルバム終盤、#13「Before I Start to Cry」は珍しくかなり大人しめ。深く沈んだ暗く優しいメロディとノイジーなギターの組み合わせはエモーショナルを掻き立てること請け合いだ。結末にも度肝を抜かれる展開があるのだが、それは自分の耳で確かめてほしい。#14「I’ll Return」では再びパンキッシュな彼女達に戻りこのアルバムをしっかりと締めてくれる。

フルアルバムだけあって色々な顔を覗かせてくれる物の、根底にあるのはパンク精神全開のノイズポップである。現代におけるガレージパンクの再解釈の形の一つと言ってもいいだろうし、日本のThe Earth Earthなどにも通ずるシューゲイザーに発展する一歩手前のガレージ・パンクを感じさせる部分もあった。至福の轟音とパンキッシュ精神の融合、是非とも楽しんでいただきたい一枚である。

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shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

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