disc review愛の裏側にある儚さと虚しさ
Addicted to LoveSCARLET
2014年に惜しくも解散した、スリーピース・ロックバンドSCARLETの2012年リリースのラストアルバム。
林束紗(Ba.Vo.)は、藤巻亮太やベンジー、HINTOなど数々のアーティストのサポートをしているということで名前を聞く機会も多いかもしれない。
音楽性としては男女ツインボーカルのオルタナティブ・ロック。空間系エフェクターを利かせた浮遊感ときらめきのあるギターに、それをがっちりと支える土台となるリズム隊の絡みが心地よい。ローファイではないものの、Yo La Tengoに通ずるクールネスも感じる。また、これまでの彼らのアルバムと比べると、テーマが恋愛ということもあってかグッとポップになっており、まだ彼らを知らない人にはまずこのアルバムをおすすめしたい。
リード曲#2は、人魚姫伝説をモチーフしたファンタジックで儚い歌詞に、きらびやかかつポップなのにどこか冷え切った曲調、そしてメインボーカルを務める林束紗の透明感のある歌声が相まって、虚しさとポップネスの融合を感じることができる。熱量を抑えつつもキャッチーという、一見相反する要素を見事に共存させているのは、ある意味このSCARLETというバンドの完成形だったのかもしれない。また、ベースが曲を引っ張り、ギターが上物に徹するイントロ~Aメロは、スリーピースバンドならではの役割分担、と言えるだろう。今まさに輝きを演じている、10年後には忘れ去られているであろう「IDOL」を歌った#4もまた、憂いと虚しさを含ませつつもキャッチーで、テーマも相まって虚しさ抜群だ。#8はタイトル通り12月の街並みを思わせるギターからはじまり、ふらふらとした1番から緊張感溢れる2番への流れが美しい。1番では淡々と進行していたサビが2番では最高潮の盛り上がりを見せる曲構成の妙も震える出来だ。2番サビでは珍しくボーカルも感情的になる。橋本洋介(Gt.Vo.)がメインボーカルを取る#9はラップにも似た歌唱も見せる穏やかなミドルチューン。#10はどこか暖かみのある壮大なバラードで、直球な曲名「愛してる」は歌詞にも幾度か登場する。「Addicted to Love」というアルバム名にふさわしい楽曲でもあるだろう。ラストを飾る#11は、アルペジオの浮遊感とリズム隊の強固さから海底を歩いて居るような雰囲気も持つミドルチューン。基本的には橋本Vo.だが、ラストサビ前、2フレーズだけ顔を出す束紗Vo.が切なさ満点でハッとさせられること請け合いだ。この2フレーズがあるが故にアルバムのラストに選ばれたのではないかというほど、はっきりとした余韻を残してくれる。
淡々としつつもポップで、キャッチーだけれど虚しい、奇跡のバランスで作り上げられたこのアルバムの2年後、SCARLETは解散した。今までの空気感を損なわずここまでのポップネスを獲得したSCARLETの次の一手を心待ちにしていた自分としては本当に哀しみに暮れたのであるが、このアルバムで完成してしまった、という捉え方もできるのかもしれないと思えるようになってきた。それだけクオリティの高い一作だ。