disc review光ったり黙ったり、流れるままに揺らいだり
うつくしきひかりうつくしきひかり
ピアノ、ボーカルのナカガワリサ(ザ・なつやすみバンド)と、スティールパンのMC.sirafu(ザ・なつやすみバンド/片想い)で結成されたポップスデュオ、うつくしきひかりのフルアルバム。このうつくしきひかりという名前が言い得て妙。煌めくピアノやスティールパンの音色とナカガワリサの透明で柔和な歌声がマッチし、まさに「うつくしきひかり」の中に居るような聞き味なのだ。また、本作は通常のレコーディングスタジオではなく、神戸の洋館でレコーディングされており、恐らく反響によるものだと思うが、どこかふわふわとした音像に成っており、これまたサウンドの柔らかさに拍車をかけている。
優雅に奏でられるピアノとスティールパンが時にユニゾンし、時にハーモニーを産む表題曲にしてセルフタイトル曲#1「うつくしきひかり」。穏やかな楽曲ながら、何度か訪れる静寂によって緩急もついているのが上手い。#2「New Smile」は鳥の歌声や足音、話し声などの効果音が効果的に使われている明るめの曲。Aメロの瞬くようなスティールパンも心地よい。代表曲の一つ、#3「ともだちを待っている」では、スティールパンの揺らぎから来るふわふわとした酩酊感が楽しめる。#1同様に幾度か静寂が訪れ、その静寂すらも心地よい。#5「黙祷」は切なさ満点のピアノのイントロからはじまる寂しげでメランコリックな楽曲。スティールパンはまるでストリングスのように楽曲の裏から雰囲気を作り上げる役割を果たし、その不可思議な音色が楽曲の世界観を独特のものに作り上げている。また、ドアを開け閉めするような効果音が入っており、それもいいフックとして機能している。#6「針を落とす」は単調なフレーズを繰り返すスティールパンが印象的。ノイズが入ってきたり、音像が微妙に変わったりと実験音楽的要素も含まれる間奏も気持ちよく聞ける。#8は電車を思わせるSEが随所に挟み込まれるインスト曲。#9「夜」ではもともと柔らかだった歌い方もさらに優しくなり、少しばかりの寂しい雰囲気はまさに夜を想わせる。
#6、#8のような実験的な要素もありつつも、基本的には穏やかで優しい楽曲が続く構成であり、ぼーっと流しながらその音像に酔いしれる聴き方が正しいのではないかと思う。なお、MC.sirafuはこのバンドや前述の2バンドの他にもceroのサポートメンバーに成るなど忙しい身であり、うつくしきひかりとしての活動はやや停滞気味である。残念な事実だが今後の活動に期待したい。