disc review高揚感と多幸感で魅せるハッピー・シリアス・ポップ
Hello SadnessLos Campesinos!
イギリスのインディー・ロックバンド、Los Campesinos!のフルアルバム。シンセポップのハイファイな魅力もオルタナティヴロックのパワフルな魅力もニューウェーヴのいなたい魅力も飲み込んで、高揚感と多幸感あふれるエネルギッシュなインディー・ロックを聞かせてくれる。多人数編成ということもありコーラスワークが凝っているのも特徴的で、合唱や掛け合いなど音楽の源流的楽しさも見せてくれる。
祝祭のようなハッピーな雰囲気が全開の#1『By Your Hand』。ダンサブルなシンセも楽しい。ジャンキーなビートで魂を鼓舞する#2『Songs About Your Girlfriend』は随所で顔を出すコーラスの見事な入れ方も盛り上がりに色を添える。表題曲#3『Hello Sadness』はタイトル通りの悲しげなエモーショナルを湛えつつも、どこか彼ららしいハッピーさもまた抱いている不思議な一曲。ハッピーとエモーションが最高値に達するギターソロ以降は必見。そのエモーショナルな流れを引き継ぐのが#4『Life is A Long Time』。力強いボーカルと分厚いギターがもたらす高揚感。センチメンタルに進行し泣きのギターフレーズも随所で聞ける#5『Every Defeat A Divorce (Three Lions)』。シリアスな掛け合いを積み重ねた後の救いであるラストのサビには心を揺さぶられることだろう。余韻をしっかりと残すアウトロでアルバムの流れを一旦切る曲にもなっている。レコードでいうA面ラスト、といったところだろうか。
ではB面の最初である#6『Hate For The Island』はと言うと、これまた前曲とは違ったシリアスさに包まれた楽曲である。救いのようなアルペジオとシンセの掛け合いに、モノローグのような温度の低めのボーカル。否が応でもアルバムの展開に引き込まれた後の#7『The Black Bird, The Dark Slope』は彼ららしいポップネスに若干の攻撃性を含んだアップテンポのナンバー。二番のAメロで聞ける味のあるシンセは必聴。#8『To Tundra』は多幸感溢れる重厚で壮大なバラード。#10『Light Leaves, Dark Sees pt.Ⅱ』は合唱も取り入れた歌メインのしっとりとした楽曲。
お祭りな曲からシリアスな曲、アップテンポからスローテンポに至るまで、彼らの楽曲を支配するのは多幸感とポップネスである。シンセやギターの音色もボーカルの声質や音圧に至るまで全てが、圧倒的なまでにリスナーに底知れぬ期待とそれに伴う高揚をもたらす音楽なのである。シリアスな楽曲も多いものの、どこかポジティヴな質感で包まれた一枚。きっと音楽の楽しさが思い出せる一枚でもあるだろう。