disc review00年代ハイファイサウンドで魅せる北欧ジュブナイルポップス
Shades of PurpleM2M
ノルウェーのポップデュオ、M2Mの2000年発売の1stアルバム。BillBoard 200のチャートで89位を記録するなど、全世界で非常に高い売り上げを記録したアルバムである。北欧らしい低温で落ち着きのある質感と、全世界を巻き込めるだけの楽しいポップセンスが共存した心地よいポップスの数々。彼女たちが発売当時まだ16歳と15歳である、というのも驚くべきことであろう。さすがにソングライティングの全てが彼女たちで賄われている曲は少ないが、それでも二曲を除けば彼女たちの名前が何らかの形でクレジットされている。
アメリカ版「ポケットモンスター ミュウツーの逆襲」のエンディングテーマである#1「Don’t Say You Love Me」。ダンサブルなアコースティックギターとウィスパーボイスでの緊迫した始まりから、多幸感溢れるサビまでの流れが見事。メランコリックな旋律と無機質な電子音の絡みが独特な#2「The Day You Went Away」。哀愁を残しつつも開放的なサビが心地よい。彼女たちの瑞々しいジュブナイルな歌声も、楽曲に幸福な色を添えている。穏やかなミドルテンポポップス#3「Girl In Your Dreams」。ちょっとダークで色っぽさすらある2ndシングル#4「Mirror Mirror」。基本的にはBGMとしても成立するような安心して聴けるポップスではあるのだが、加工ボーカルや、1:18あたりの謎の電子音で適度にドキッとさせる演出も。この曲と、次曲#5「Pretty Boy」はソングライティングにおいて彼女たちの手が一切入っていない曲ではあるが、アルバム中の空気にしっかりと馴染んでいる。
3rdシングルである#7「Everything You Do」。ひっそりと目立たない程度に、だが確実に楽曲の空気感を支配するスペーシーでミスティックな電子音が職人技を感じる。キャッチーなサビメロもグッドだし、ラスサビ前のフレーズも最高。#8「Don’t Mess With My Love」はアコースティックギターのカラフルな旋律を中軸にバンドサウンドを基調としたポップな一曲。派手なギミックはないが彼女たちのメロディーセンスの炸裂した一曲であろう。冷たい北欧の空気感を感じさせるエレクトロニカ色の強い#9「Dear Diary」。#10「Do You Know What You Want」は強烈にソウルフルなホーンにいきなり驚かされる異色の楽曲。アルバム中唯一の参加となるアメリカのオールドスクール・ヒップホップ・クリエイターチーム、Full Forceのプロデュースであり、ヒップホップ/R&B色の強い一曲。だが確実にM2Mの物として咀嚼されているのは、さすがはプロデューサーとしての側面でも活躍してきたFull Forceと言ったところか。#12「Our Song」はBee-Gees「Too Much Heaven」のコーラスをサンプリングしており、サビはいつまでも聞いていたくなるような心地よさ。最後は哀愁を漂わせつつもどこか無機質なギターソロが印象的な#13「Why」で締め。
楽曲ごとに多少色を変えつつも、「これこそがM2Mのポップスである!」というモノをきちんと提示するようなアルバムに仕上がっている。北欧由来の落ち着いた幸福感を存分に増幅している、派手さを抑えた電子音と随所で聴けるキラキラしたアコースティックギターが肝で、この独特のハイファイな空気感はまさに00年代のポップス、と言えるだろう。M2Mは残念ながら2002年に解散するも、その後メンバーのマリオン・レイヴンがソロで出したアルバムが日本のチャートで1位を獲得、ゴールドディスクを獲得するなど、その後のポップスシーンにも多大な影響力を見せているようである。
(MVにはポケモンも登場する。)