disc reviewシネマティック&メカニカルなUSポストコア必聴作

tomohiro

The Martial ArtsCinemechanica

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Cinemechanica。ちょうど今、10年ぶりとなるフルサイズアルバム、”CHINEMECHANICA”を発売し、マスロック、ポストハードコア周辺の古参リスナーを沸かせ、今作が初対面となるビギナーに衝撃を与えているであろう、4人組USポストハードコアだ。ポストハードコアといえば、未だに僕は冒頭の#4 “I’m Tired Of Paul McCartney”や、Meet Me In St.Louisの”All We Need Is A Little Bit Of Energon”がまず思い浮かぶような、僕にとってはUSポストハードコアといえばCinemechanica、UKポストハードコアといえばMeet Me In St.Louisと言ってしまえるような、それくらい重要度の高いバンドだ。活動時期としても近いバンドでもある。(Meet Me In St.Louisに関しては以前レビューしているので、そちらを参考願いたい。)今回は2ndの発売に合わせて、改めて1stアルバム”The Martial Arts”の再評価への願いも込めてレビューしたいと思う。

 

まず彼らの特徴としてあげられるのは、変拍子と多展開のトリッキーな楽曲、コード弾きでの音圧感と、オカズのように差し込まれる単音リフでのへなちょこ感、歌にあまり興味がなさそうな適当に叫びたがる感じのボーカルといった、総合して評価するところの、「頭の悪そうなマスロック」感なのでは無いかと思う。そもそもマスロックという言葉自体、「精緻に構築された各パートの絡みが無機的に織りなす音楽」というような解釈が一般的だと思うので、彼らとは相反する言葉にも思えるが、その辺りは定義づけの違いということで。

また、同時期に活動していたThe Fall Of Troyのようなカオティック要素を持ちながらも、あくまでメタリック方面ではなく、メジャー路線も感じないインディーさ、パンクさ溢れる音像も魅力的だ。

#1 “Yen”はイントロからの裏で入るハイハットが曲者で、裏表の感覚があやふやになる。2分程度の楽曲の中にテンポチェンジまで盛り込むポストコアマシマシな一曲だ。#2 “Antsinjapants”は左耳側でずっと単音リフを弾き続ける耳障りさが逆に気持ちよくなってくるガチャガチャ曲。終了直前のギター2本のリズム感強めの絡みはなかなかに必聴。個人的な名曲である#4 “I’m Tired Of Paul McCartney”は冒頭で聞いてもらったと思うのでいいとして、#5 “Take Me To The Hospital”と続く#6″Get Outta Here Hitler”はミドルテンポでのインスト曲であり、この2曲で組曲のようにも捉えられるだろう。くどいぐらいに繰り返されるベースリフ、ギターリフは言うまでもなく、インスト曲ということもあってか、コード感やコード進行にうま味のあるものが多い。歌なしで曲の聴かせ方を変えてくるのは技巧的だ。これらインストを一応の箸休めとして、続く#7 “Ruins Of Karnac”からは再び、単音リフ炸裂ユニゾン炸裂のCinemechanica節全開の曲。#8 “Bruckheimer”に関してもそうだが、どちらのギターもすさまじいがどうやって弾きながら歌ってるんだろう。そしてラストトラックとなる#9 “Orlandu”はインストながらもボーカル入りの楽曲のような軽妙なテンション感が楽しい一曲。ややボーカルに埋もれがちなベースのゴリゴリとした佇まいにもゆっくり耳を傾けられるのがいいところだろうか。

 

と、このように紹介してきたが、いかんせん一曲一曲の情報量がなかなかすさまじいバンドだ。アルバム一枚で得られるリフの数など想像もできないほど。一時期Bit Brigadeとかいう名前でレトロゲームのBGMをカバーし続ける謎バンドとしての活動ばかりが目立ち、Cinemechanicaとしての新作が聞けるのか不安に思った時期もあったが、こうして新作がリリースされたのはとても嬉しく思う。もちろんリリースは国内ポストハードコア、エモ大本命レーベルstiffslackから。メンバーチェンジによる新たな化学反応や、ConvergeのKurtによるミックスなどいろいろチェック要素の多い作品だ。国内盤にはボーナストラックも付属しているので、ぜひ愛好家諸兄は購入しよう。

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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