disc reviewスカンディナビアの背骨で鳴らされる、レトロ・ポップ・ソーダ・オルタナティブ

tomohiro

Relax / RelapseDråpe

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ノルウェーはオスロのシューゲイザーに端を発するインディーロックバンド、Dråpeの2ndフルアルバム。Dråpeという言葉、僕は普通にDrapeと発音しており、ドレープとはドレスなんかに入るひだの部分を指す言葉であり、どことなくラグジュアリーな雰囲気が漂う彼らにはなかなかよく合っている名前だと思っていたのだが、実際の読みはDrapeではなくDrappeという発音が正しいらしく、これは英語に訳するとDroppingとなりすなわち下降とか、落下とかそういったイメージをまとうバンド名であったわけである。

ノルウェーという土地は、極寒のスカンディナビアにおいても最も北側で唯一外海に面し、フィヨルド地形をはじめとする雄大な自然によって語られる。そういった厳しい自然環境というのが彼らに実際どれほどの影響をもたらしているのかは知るべくもないが、Eivind AarsetのようなノルゥェーアシッドジャズやSerena Maneeshのようなダークなシューゲイザーなど、どことなく暗い面持ちの音楽が多いように思う。彼らDråpeが必ずしもそういう音楽性なわけではないが、キンとした冷たさが感じられるようなシンセフレーズの音色や、男女ともにセクシーで落ち着いた声音のボーカルなど、同じ北欧でも、内海に面するスウェーデンやフィンランドの幸福感を下敷きにした音楽とは違った、それ独特の落ち着きを持っているように思える。

 

僕が彼らを知ったのはこれより以前、おそらく1stミニアルバムに収録されているBy Heartという曲だ。

 

イントロのアルペジオから、いやむしろこのアルペジオが完璧すぎて他を完璧に引っ張っている楽曲なのだが、静のアルペジオとサビでの動のシューゲイズサウンドのバランス感は言葉にし難いものがあり、未だに北欧のバンド音楽を語る上で僕の中で決して外せない一曲だ。

この頃の彼らは比較的シューゲイザーからの影響が深く、反響するディストーションサウンドと空間系エフェクトは正に、といった様相であったが、この音源から4年という年月を経てリリースされたのが、今回レビューするアルバムである。

あの頃の初期衝動はどこへやら、今作において散見されるのは音楽として成熟期を迎えている上質なポップス成分とそれをインディーに味付けするサウンドだろう。北欧の音楽と日本の音楽はそのクサさにおいて共通項を見出すことができる場合が多いのだが、#2 “Replica”などが正にそういう曲である。イントロから流れ始めるギターフレーズの歌謡曲にありそうな親しみやすさと、サビでそのメロディに追従させるボーカルの確信犯さは美味しくいただきましたという感じ。#4 “Round And Around”は、ジャケットのような遠大な風景の中車を走らせる爽快感を音楽にしたようなドライブ用チューン、#5 “Pie in the Sky”はその名の通り空を感じさせる青天井アルペジオと不可思議シンセフレーズ、覆いかぶさる切なげメロディが独特のマーブル模様を演出し、#7 “My Friend The Scientist”はイントロを裏切るポリリズム系ミドルテンポに休日午後を思わせる軽やかでビターな歌唱が素晴らしい。そして初期の青さとシューゲイズを思い出させるセツナメロディの#9 “Still Raining”には思わず涙もこぼれる。

 

現在も活動しているが、ボーカルはサポートらしく、現状一番の新譜はシューゲイジングなインストという、今なお彼らなりのクリエイティブと挑戦を続ける。

 

(日本のことをどこまで知っているのか知らないがなぜかいつもステージには招き猫がいる)

今後にも期待したいし、来日とかあれば嬉しいのだが、来日の時は招き猫持ってきてくれるのだろうか。

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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