disc review「とは何か」への返答を「何か」を持って返す

tomohiro

Thin Black DukeOxbow

release:

place:

USはカリフォルニアの30年選手、エクスペリメンタル、ノイズロックをアヴァンギャルドなスタイルで貫き続け、今年7枚目のアルバムをリリースしたOxbow。その先鋭的で完全に周りから浮くオリジナリティでジャンルの垣根を超え、様々なエクストリームなバンドからの熱い支持を集め、Neurosis, Shellac, Convergeなど、ハードコア、ヘヴィロック界隈との共演も多く、ここ日本にもかつて54-71が招聘した。ex-Isis, 現SUMACのAaron Turnerからのラブコールを受け、現在はHydra headに所属、今作もHydra headからのリリースである。

初期の彼らの作品から。ズクズクに歪んだギターでのメタリックなフレージングなどは80年代ハードコア・パンクとの相関性も見いだしつつも、ノイズや変拍子と多展開などエキセントリックな要素も多用し、すでに異彩を放っている。また、このバンドはボーカルがいい。Eugene S. Robinsonという名の彼は、豊かな低音と、素っ頓狂なハイトーンにスクリーム(というかわめき)を縦横無尽に使い、楽曲の整合性をぶち壊す、確信犯的な台風の目だ。このころはまだ彼ら自身も若く、ボーカルの声も非常にみずみずしいが、最新作で聞ける彼らのサウンドは、30年の重みとしての説得力も十分のシックなジャズ・プログレであり、ストリングスやホーン隊、鍵盤で映画音楽のような壮大さと、描写性を生み出し、そこにRobinsonは時にポツリポツリと独白し、時に声を荒げ、いうならば整然と雑然との戦い。もはや彼らの音楽性には真似できるような隙はなく、孤高と呼ぶにふさわしいものとなった。

 

#1 “Cold & Well-Lit Peace”がすでにアドレナリンを沸騰させるような内的エネルギーに満ちる。口笛と寂しげなギターのハーモニーで注意を集め、静かになったと思えばホーン隊がグググッと楽曲の温度感を押し上げる。30年の燻し銀を感じさせるかのような、渋い展開が続くのもヨダレもの。

MVもめちゃくちゃ渋くていい。

今の彼らのキーワードは、哀愁。年を重ねて来たしわから滲み出るような音の説得力と佇まい。#2 “Ecce Homo”は#1の流れを継ぎ、よりメランコリックさを感じさせる。時として泣いているようにさえ聞こえるRobinsonのボーカルは、「白髪混じり始めた見た目ひょうきんなおじさんがクネクネなにを言ってるのか」などとは言わせない真に迫る感情のおり重なりがあって、非常に重く胃にのしかかる。数曲バンドサウンド中心のナンバーを挟みつつ、ピアノとボーカルのポエトリーリーディングが中心で展開していく#6 “The Upper”。決して音数は多くないものの、挿入されるギターのフレーズはどれもこれも白眉で、聞き逃しは許されない緊張感。#7 “Other People”はアーバンなシティトラック。西洋のややくすんだビル街を思わせる根明のコード感と静かに跳ねるドラミング、時にノイジーに場を行き来するギターは、シューゲイザーやポストロックの壮大さを持ち、街の情景をより鮮明に、雑踏とともに描き出す。

シネマティックというのはこういうことを言うのだろうか。決して音圧でぎちぎちなわけでもないし、涙腺をぐいぐい刺激するフレージングもない。でも染み出すようにしてウェットさ、エモーショナルさが溢れ出すこの作品、かなりの怪作であり、快作。何年先でも聞いていたいと思える音楽に出会うことはそれほど多くはないが、この一枚は僕にとって間違いなくそう言った一枚になる。なにはともあれ、早く盤を買いに行かなきゃ。

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

このライターの記事を読む