disc review電子音と生音の共鳴、硬質爆走ニューウェーブ

Absolute POLYSICSPOLYSICS
日本のニューウェーヴ・ロックバンド、POLYSICSの2009年盤。DevoやP-MODELなどの影響を公言し、ニューウェーヴマナーに乗っ取りつつもコミカルさやキャッチーさを同時に追い求め、ジャンル外でも広く評価されている彼ら。2005年リリースの「Now is the time!」から動員や売り上げが上がっていき。その後「KARATE HOUSE」、「We ate the machine」を挟み今も続く人気を不動のものとした後のリリースである。このアルバムの直後にシンセボーカルであったカヨが脱退したことから、ある意味ではPOLYSICSの一つの期の区切りであるアルバムとも言える。
そんな今アルバムは本人曰くバンド初期の衝動感を意識したそうで、パンクやハードコアの要素が十二分に含まれた、ハードなアルバムとなっている。そこにPOLYSICSらしいひねくれたエッセンスやキャッチーさが加えられ、全曲脳汁溢れまくりに仕上がっている。
スピーディーでガツガツとしたビートに凶悪な電子音が暴れまわる#1「P!」。まさに「P!」と鳴り響くホイッスルの音がコミカルに挟まるのが彼ららしさ。デジタルハードコアとテクノポップの対比が鮮やかなポップネスを産み出す#2「Shout Aloud!」。キャッチーなリフとユニゾンするボーカルの弾けたスピード感がキャッチーな#3「Young OH! OH!」。ちょっと皮肉めきつつ耳に残る言葉選びも素晴らしい。ニューウェーヴィーな不穏なシンセベースから始まり、ギャンギャン鳴るギターがリズムを刻み、ダークでハードに爆走する#4「催眠術でGO」。サイバーな電子音が心地よい小物曲#5「Time Out」を挟み、これまたニューウェーヴ魂全開の#6「Bero Bero」へ。サビの一瞬現れる謎にキャッチーなメロディやそのあとの「ベロベロ」でコミカルさも漂わせる楽しい一曲。続く#7「Cleaning」はまさかの小細工なしのダンサブルでちょっぴり切ないギターロック。リズム隊のフレーズなどにちょっとニューウェーヴさを感じなくもないが。
後半戦の幕開けとなるのはハードコア色強めながらサビはすごくキャッチーな#8「E.L.T.C.C.T」。電子音とガツガツとしたギターの産むトランス感からサビでの圧倒的解放感の対比がたまらない。ちょっと渋めのギターも顔を出す#9「First Aid」。#10「Fire Bison」はボコーダーの低温さと高温なシャウトの対比が素晴らしいハード目の楽曲。インダストリアルな打ち込みも心地よい。不穏なシンセの絡み合いが多幸感を産み出す#11「Eye Contact」。ちょっと北欧っぽい空気感も感じるか。シングル曲ながら破壊的なまでにハードな#12「Beat Flash」。アルバムの流れで聞くと爽やかポップと見紛いそうな、開けた空気感の#13「Speed Up」。拍子の変わり方もキャッチー。最後は再びニューウェーヴな#14「Wasabi」で締め。めまぐるしく移り変わる展開一つ一つが理解を拒絶して居る様にも見える、でもそれこそがニューウェーヴのいいところ。
シングル曲を除けばライブキッズ受けはそれほどでもなさそうな一枚だが、POLYSICSというバンドのイメージを変えてくれる一枚でもある、あっという間の14曲35分。「名前だけは知っているけど……」みたいな人も是非手に取ってみてほしい。キャッチーなものを求めて居るなら「Now is the time!」か「KARATE HOUSE」の方がおすすめだけど、ハードさを求めているなら。