disc review音楽への愛をカバンに詰めて、いざ黄金の未来へ
GOLD FUTURE BASIC,住所不定無職
日本の若いバンドの常として、最初に世に出た時のイメージから脱却するのは難しい。故に見過ごされる名盤というのもまた多いのである。
誤解を恐れずに言えば、ガレージ、ローファイ界隈から現れた激ポップ色物ガールズバンド、というのが住所不定無職のパブリックイメージだと思う。或いは、miwaや森田童夢も歌唱した名曲「あの娘のaiko」のイメージが強い人も多いかもしれない。彼女達のブラックミュージックを始めとする様々な音楽への愛と元来のキラーチューン志向が合わさり生まれた今作を聴くと、彼女達はシティポップや渋谷系の文脈で語られてもいいと思うのだが、そう言った例はそれほど多くはないと思う。堂島孝平プロデュース曲があったり、スカート澤部をフィーチャーした曲が入ったりしてるにも関わらず、である。
古いヨーロッパ映画のオープニングかのような#1「Get Ready(Intro)」から、優雅なディスコソウルナンバー、#2「IN DA GOLD,」へ。レトロなコーラスワークやラップの掛け合いなど、トリプルボーカルという構成を存分に活かした楽しい一曲。メロウでCメロもグッド。情熱的なリズムに乗るクールなボーカルがエモーショナルなカリビアンポップ#3「CRIMINAL B.P.M」。堂島孝平プロデュースの高速渋谷系ポップ#4「宇宙のYeah!!!」。ソフトロックやネオアコ好きにはたまらない甘いフレーズの応酬。#5「南でUhh!!!」は南国感溢れるゆったりした曲。スキャットパートも。
インタールードを挟み、スカート澤部渡をゲストに迎えての#7「ムーンライト・シティ・トーク」。ナイアガラ・レコードやオリジナル・ラブあたりのエッセンスも感じる日本人好みのメロディの乗った極上のシティポップに仕上がっている。#8「月曜21時に恋してる」は90年代J-POPあたりのオマージュも感じる。
#10「ローラは不機嫌」では60″s~70″sポップスを思わせる。ローラの言い方とかたまらない人もいるのでは。#11「Happy Rain~雨のハイウェイ大脱走~」はホーンセクションの映えるジャズ歌謡で、スカパラとかユアソンあたりにも通ずる風通しの良さが面白い。#12「ジュリア!ジュリア!ジュリア!」は壮大なアレンジがたまらない。この辺りのパロディ路線は初期から彼女達が発揮しているセンスの一つだとも思う。
名曲「1.2.3!」のセルフリメイク、#14「one,two,three fuckin’ copyright」。もともとソウル色の強めの曲だったこともありそのままでもこのアルバムの空気には馴染むだろうが、原曲とは豊かなホーンセクションが導入され楽しさが増している点がグッド。ラストはメロウにはじまりつつ軽快なロックンロールに突入する#15「SHANE」。ローファイなロックンロールという点では初期の住所に繋がるところもあるが、音像から放たれる大人びた雰囲気はmonochrome setあたりに通ずるところもあり。
旧作のキラーチューンエクスプロージョンっぷりは健在ながら、グッと大人ぶった方向に舵を取った今作。渋谷系やシティポップなどを愛好するリスナーには今からでも是非手にとってほしいアルバムである。現在、メンバー4人中3人はMagic, Drums & Loveとして、さ今作のブラックミュージック路線をさらに押し出したようなバンドで活動を続けているので、そちらもぜひチェックしてほしい。