disc review鉄音の軋む電機兎、常闇の穴へと
UnderneathCode Orange
アメリカ、ペンシルヴァニアから来たる5人組、激ヘヴィネスアクト、Code Orange。これまでも重く、早く、うるさいメタリックハードコアアクトとしての活躍があり、来日時もそのハードなアクション性で大きな爪痕を残した彼らだが、2020年満を辞してリリースした新作『Underneath』の事件性たるや、実に凄まじいものであった。これまでの彼らにあった暴力性はそのままに、鋭さばかりが異常性を持って研ぎ澄まされ、それをデジタルの編集力を持って完全に異次元の領域にまで引き上げた実に恐ろしい作品である。
近年メタリックハードコア(メタルコアではなく、メタルの系譜にも組み込まれるハードコアバンド、という捉え方をしてくれると幸い)における可聴域は下がるのみで、顕著なのはFull of Hellなど。
また、今年リリースされたFangeの新譜も重さや破壊力という観点では凄まじいものがあった。
こんなこめかみを青筋立てた激重アクトたちと肩を並べるCode Orangeだが、彼らがその新作において圧倒的に頭一つ抜けていると感じるのが、キャッチーさ、ポップさだ。これほどに暴力性に満ちた音楽を見せておきながら何がキャッチーか、と思う気持ちもわかる。だが、とりあえず聴いてみてほしい。いずれも3分程度で重くも後を引きすぎない長さの曲。メタリックなリフの合間に覗く、しっかりフックするリフ、暴力的ながらも解像度が高く耳触りの良さする感じるスクリーム。
そして何より今作全体に漂うインダストリアル、サイバーパンクさは、ネオトーキョーみというか、マンガ・アニメ・クールジャパンをなぜか感じてしまうような奇妙な厨二臭さがある。ここで彼らのアー写を見てみよう。
溢れるネオナチ・ネオトーキョー・ロマンチシズム。さながら攻殻機動隊かというサイバーパンクさとそれが完全にハマった異様に風格のある佇まいには、彼らの音楽をビジュアルとしてそれそのまま打ち出しているくらいの強力な説得力があり、そりゃあんな音楽も生まれるわという納得感を与えられる。
そんな彼らの新作『Underneath』、先行公開されたうちの一曲#2 “Swallowing the Rabbit Whole”。
不穏すぎる世界観の映像、マッドな湿り気を持ったピアノから始まり、メンバー全員今にもブチギレそうな顔でかます怒りと疾走のヘヴィネスグルーヴ。そしてこれらの肉感的な要素をネクストステージの存在感に引き上げたのが、時折挿入されるガラスの割れるSEやデジタル的にo/1で処理される無音のキメなどのエレクトリックな音響の扱い方。これから先、デジタルな音響処理をいかに上手く扱えるかが、その存在感の大きさに現れるようになるな、というのは僕が去年Billie Eilishを聴いた時に感じたことだったが、まさにそれを体現したのが彼ら。メタリック・ハードコア・ASMRとでも言えるような、非常にレベルの高いデジタル処理との融合を果たし、来たるUnderneathへのもはや恐怖に近い期待感を高めた一曲、それがこの曲だった。既にこの曲の公開時点でアルバムへのリスナーの期待は臨界点近かったはずだ。
そして彼らが比類なきビッグアクトへと成長したことが完全に証明されたのが、本アルバムのリリース日。Swallowing the Rabbit Wholeはあくまでも今作へのインビテーションでしかなかった。そう断言できるほどに、アルバムに収録されたいずれの曲も抜群のデジタライズドされた完成度を誇っていたのだ。
「ただ一人」と繰り返す謎の日本語サンプリングでネオトーキョーからの刺客であることを明示した#4 “You and You Alone”、逃れられない鈍重な重力でアルバム1の重心の低さを誇る#6 “Cold.Metal.Place”、ヒステリックなピッキングハーモニクスと怒りをぶちまけるスクリームがあまりに暴力性の高い#9 “Erasure Scan”、キャッチーなギターリフとストレートに刺さるGt/Vo. リーバ・マイヤーズ嬢のボーカルがハードコアとしての新たな切れ味を見せる#13 “A Sliver”や#14 “Underneath”など、最後まで気が抜けない名曲の応酬、最後までチョコたっぷりとはこのことで実に満足感の高いアルバム。
このアルバム一枚で前後5年近くのハードコアの歴史に楔を打ち込み、メタル畑にも消えない影を落とした、それくらい言っても遜色ないくらいの完成度と高いレベルへの指向性がこの一枚からは感じ取れる。ハードコア・アニメ・キッズCode Orange入魂の一枚、『Underneath』。これを聞かずには2021年には進めない、そんなエポックメイキングな作品の一つである。