disc review情歌に染み込む鉛色の雨、振動する地殻へと
Self PortraitLoma Prieta
US激情の中核でその存在感を発揮する、サンフランシスコの4人組、Loma Prietaのアルバムとしては5作目となる作品。彼らの1stである”Last City”時に見られたような、変拍子、多展開に身を任せ金切り叫ぶどこかナードさも持ち合わせたカオティックスタイルはついに身を潜め、いぶし銀とも呼べるような熟練されたハードコアサウンドが鳴らされる。
1曲目からエモーショナルさ、初期衝動のおさまることを知らない名曲”Worn Path”に代表される、メロディックさも覗かせたまさに激情たる音像を成し遂げた一枚。
“Loma Prieta”とはメキシコの地名であり、1989年に大きな地震に見舞われた土地である。彼らがこの地に何の思い入れがあってバンド名に引用したのかは定かではないが、今作”Self Portrait”で聞くことのできる彼らの音楽には、地の底から沸き上がるような、腹の底に響くような共鳴とエネルギーを感じてしまう。
アルバムの1曲目、”Love”。この曲はまさにこのアルバムの方向性を体現するような一曲で、ミドルテンポで軋むように奏でられる歪んだアルペジオ、絞り出すようなかすれ切ったシャウト、情念豊かに走り出す中盤以降の展開、3分弱で糸が切れたように一気に畳まれる楽曲の構成。そのすべての要素に、「男臭さ」が染み出し、醸成される円熟のハードコアはまさに彼らならでは。ノイジーに不協音が三半規管をグラグラ揺らすパワーチューン、#2 “Black Square”に流れた後、#3 “Roadside Cross”では思わぬメロディアスな展開に唸ること必至。もちろんメロディアスであってもにじみ出る汗臭さは決して忘れない。
アルバムの折り返し地点となる#6 “Nostalgia”は残響するアルペジオと輪郭のにじむ歌唱が後半のイントロダクション的な役割を持つ楽曲で、湖底のような雰囲気を見せる序盤から一気にカオティックになだれ込む緊迫感には思わず手に汗を握る。続くショート寄りの3曲の破壊的なディストーションサウンドは圧巻。DeathwishのDeathwishたる要素を基盤とした、Deafheavenのエンジニアを機にブレイクしたJack Shirleyが前作に引き続き担当していることによるギチギチな音の密度はもはや芸術の域に達しているのではなかろうか。
また、#5 “More Perfect”や#10 “Satellite”では、どこかインディーロック的な浮遊感を見せるクリーンサウンドも操り、これがパリパリに張り詰めた緊張感を和らげるクッションとしても機能している。
いまやUS激情におけるマストなバンドとして名を挙げたLoma Prieta。そんな彼らの、男の挽歌とも言えるようなほとばしるエネルギーを、一身に浴びられる、今の彼らの写し鏡、まさに”Self Portrait”たる一枚である。