disc reviewニューミュージック壊れ済、鮮烈なるポップオーパーツ

shijun

4 to 3小川美潮

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日本のシンガーソングライター、小川美潮のソロ2nd。元々は「チャクラ」のVo,としてプラスチックスやP-MODEL、ヒカシューにジューシー・フルーツあたりと共に日本のテクノポップ/ニューウェーヴ期を駆け抜けていた彼女。このアルバムはそれよりは寧ろこのころの松任谷由実のようなニューミュージックに接近したような出来であり、タイアップも数種獲得しているなどポップ志向だが、その中でもやはりニューウェーブ期を駆け抜けた経験を感じさせるような強烈すぎるアレンジ、テイストも感じられる。普通のJ-POPとは何かが違う一枚で、最高傑作に上げる人も多い。小川美潮の、ではなく、J-POPの最高傑作という声も聞く。

ボーカルに纏わりつくようなチャカポコとしたリズムがなんだか心地よい”#1「デンキ」。エキゾチックさすら感じさせるようなシンセとボーカルラインだが、小川美潮の歌声はどこか悪戯っぽいジュブナイルさを放っており、その奇妙な取り合わせがクセになる快作である。ラスサビの開放感すら感じさせる展開もgood。表題曲「Four to Three」はフュージョンとテクノポップの融合とでも言うべきか。牧歌的な歌詞に対してややアレンジ過剰な趣もあるが、当時の松任谷由実なんかの楽曲と比較するとそうでもないかもしれない……とは言え松任谷由実とは何かが決定的に違うような、何かのネジが一本外れているような奇妙さ、そしてそれこそが彼女の魅力であり、彼女にニューミュージックではなくニューウェーヴの匂いを感じてしまう所以なのかもしれない。アウトロもそこでフェードアウトするんかい、と言った感じだし。「今日は部屋の中を全部きれいにして/ついでに私のネガティヴをかたして/蛇口で洗い流そう」なんてキラーフレーズも、やはりどこか胸の奥の毒素を匂わせる。剥き出しの音と音とがメランコリックに退転し続ける#4「野ばら」なんかも毒っぽい。説明しにくいのだけど何処かに落ち着かなさが存在している。当時のJ-POPの方法論をニューウェーヴの棒でめちゃくちゃにかき混ぜたような、息つく間もなさ。#6「記憶」なんかオケとボーカルがそれぞれ好き勝手なリズムで走り出す序盤から、急にピタッと合ってサビに突入して、融和したり離れ合ったり全く無くなったりを繰り返しながら進み続けてこれまた不思議。間奏も強烈。91年代と言うハイな時代性と小川美潮の毒素と優しさの両面性がクロスした異様な楽曲が続いた中、#9「窓」はシンプルな(でもちょっとジャジーに尖った)アレンジとノスタルジーを煽る(でもやっぱりちょっと変な)メロディでしっとりとしたバラード。シンプルに泣かせにやってくる。後半の展開は超絶エモーショナル。最後の可愛らしい感じの#10「おかしな午後」も、複雑なリズムアレンジは奇妙だし、そもそも詞世界もどこか奇妙で、スッキリしつつもどこか不思議なモノを落としてこのアルバムは終わる。

電子音の駆け巡る雄大な#3「夜店の男」、途中で挟まるドラムがトチ狂ってる#5On the Road」、ボゴボゴしたベースが強烈な#7「ほほえみ」、ジューシィー・フルーツが松任谷由実やってるみたいなモロの#8「天国と地獄」と、触れなかった楽曲も名曲揃いである。ニューウェーヴ由来の尖ったセンスと松任谷由実的なニューミュージック的なエッセンスが混じり合って実に強烈な個性を放つ一枚。大衆的では決してないが、この強烈さに惹かれる人もきっと多くいるはず。ぜひ手に取ってみてほしい。余談だが、「すぐそこっ、サンクス!」を歌っているのも彼女らしい。

 

WRITER

shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

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