disc reviewカントリーサイドを駆ける、若草色の駿馬
In MindReal Estate
明日からフジロックが始まります。というのもこれを書いているのは木曜日だからで、実際これが公開される頃にはもうフジロックは始まっているわけですが。
僕は去年が初フジロックでした。僕はそもそも人混みが嫌いなのですが、何度か森道市場なんかにテント持って参加したりして、フェスって全部が全部満員のZeppの最前列でONE OK ROCKのライブを見る(高校生の頃の話です)みたいなことにはならないんだなという認識を持ち始めていて、それでもフジってやっぱり遠いしハードルが高かったわけです。そんな僕の重い腰を動かしたのがDeafheavenの出演だったことは言うまでもないでしょう。あのDeafheavenが、あのキモオタメタラーとシューゲイザーが一番最悪な出会い方をして信じられない化学反応が起きたみたいな大傑出バンドがフジロックで、しかもホワイトステージで見られるというのはそれはそれは事件だったわけで、これは現場で見なければ、応援しなければという気持ちで参加を決めたのです。土日のみの参加でしたが、言うまでもなく最高に楽しい空間で素晴らしい音楽体験ができました。にしても遠すぎたわけです。もう来年は絶対いかねぇと固く心に誓ったわけなんですが、気づけば今年は全日参加。もちろんAphex TwinとかGorillazとかThe XXとか、Arca(DJ set)とか、追加発表で襲い来るくるりやらサニーデイ・サービスやらthundercatやら心動かす要因はあまたあったのですが、恥ずかしい話超大御所ヘッドライナー級バンドって僕ほとんど通ってきていないと言うのがあって、ライブは見たいけど曲知ってるわけじゃないs、実際発表されてフジロックで見れるの何が一番嬉しかったって、Real Estateなんですよね。
さて、導入が長くなりましたが、Real Estateの新作のレビューを今更ながらします。フジロックなので。Real Estateはセルフタイトル作で2009年にデビューを果たした、キャリア的には中堅インディーロックバンドです。でありながらその存在感は凄まじく、今やUSインディーのムーヴメントの中心にいるような存在へとなったわけです。そこにはもちろん彼らの音楽的センスもあったんでしょうが、彼らを中心に一つのコミューンのようなものが形成されており、その団体としてシーンを染めるパワーがあったと言うのも大きなところでしょう。彼らを”Hypnagogic Pop(このポップバンド眠ぃわ)”と揶揄的にも呼ばせる一因となったまどろんだギタープレイでオリジナリティを確立したギタリストのMatt Mondanileや、Real Estateだけでなくマシュー自身のバンド、Ducktailsとも共演ありと関係の深いインテリミュージシャン、Julian Lynchなど、このコミューンには非常にハイレベルな音楽が集まっていたと言えるでしょう。
さて、Real Estateの人気を支えていたのは間違いなく、創立メンバーでもあり、ヒプナゴジックな印象を決定づけることにもなったMattのギターであったことでしょう。しかし、Mattは昨年に自身のバンドDucktailsの活動に専念することを理由とし、Real Estateを脱退してしまいます。そんな状況で、強烈な個性であった彼のギターの後釜を誰が勤めるのか?という問題を実に豊かなギターフレージングで解決に導いたのが、Julianだったというわけです。
そして新体制初となるアルバム、”In Mind”を今年3月に発表したわけなんですが、これがまた凄まじいんですよね。これまで通りのまどろんだ雰囲気はシンセのフレージングやMartinの穏やかな歌声が引き継いでいるものの、ここにフレーズを加えるJulianのギターがまぁ歌う歌う。これまでもベーシストAlexの歌いまくりながらも見事にラインを抑えたベースフレーズにより華やかな印象を与えられていたReal Estateがさらにキラキラのバンドになったわけです。どちらかというと、空間の広がりを与える役割の強かったMattに比べ、Julianのギターは非常にギタリストライクです。歪ませもするしワウも踏む。しかし、これが歌の要素として強く出過ぎないのがさすがなところで、結果として彼らは今まで以上の立体感を楽曲に与えることに成功しています。これにより全体として華やかでクリアな音像になったことが確かで、今までReal Estateを愛聴してきた人にとっては少し面食らう要素もあったのかもしれません。しかし、それでもあえて僕はこのアルバムを現時点での2017年ベストアルバムだと言いたい。それほどにシンプルにいいアルバムだと思います。
#1 “Darling”は必殺の一曲なので間違いなく聞くべき。そのほかにも#2 “Serve the Song”のまったりしたナイーブさ(ギターが素晴らしい)や#6 “White Light”のカントリー調の乾”いた高揚感、これまでの彼らに近いユラユラ揺れるギターアルペジオがまばゆい目眩を誘う#10 “Same Sun”、ラストトラックとして繊細なピアノが楽曲にしっとりとした安心を与え、そこから雰囲気変わって穏やかな休日の午後の多幸感が溢れ出す#11 “Saturday”なんかは特にオススメのトラックです。
奇しくもこの記事をここまで読んで、なおかつフジロックにいる人はみんなReal Estateが見たくなるはず。そんな気持ちを込めて記事を書きました。ホワイトステージで乾杯しましょう。