disc review幕を降ろす哀悼の中、切れ目の碧空たらんことを

tomohiro

LamentTouché Amoré

release:

place:

US激情ハードコアの2本柱として長くその活躍を続けているバンドがいる。一つはPianos Become The Teeth、そしてもう一方がTouché Amoré。どちらのバンドもEpitaphという大手レーベルと契約し、メジャーなステージで作品をリリースし、舞台を重ねるごとにそれぞれの持ち味を少しずつ確立してきた。クリーントーンのボーカルにシフトし、より美麗なスクリーモとしての道を確立し歩んできたPianos Become The Teethに対して、Touché Amoréはバンド全体のサウンドをよりオルタナティブな方向に志向させながらも、哀愁を持った叫びを正面に据え続けてきた。僕は商業的なルートに乗った激情という、一部のファンからは愛憎こもった視線をも向けられそうな道を進む彼らにしかない良さに惹かれる。

 

特にTouché Amoréは、メジャーシーンの中でハードコアとしての原点的な「叫び」を軸に置いたままでその活躍を続けていることがとても素晴らしいと思っている。彼らの前作『Stage Four』は、特に衝撃的で、それまでの激情らしさであるウェットなソングライティングから方向性を転換、よりポジティブで空に抜けるような、大陸の乾いた風を思わせる爽快感を前面に押し出した異色の激情だった。(前作のレビューはこちら

 

それは当然ファンには賛否両論を持って受け入れられたが、僕には大ヒットした作品で、リリース当時はかなり聴いた。そんな背景を持って次のTouché Amoréがどう進むのか、というのは僕としてもかなり気になるところで、『Stage Four』が”そういうアルバム”だったのか、今後の道筋を明確に指し示したメルクマールだったのか、その答え合わせを待った。

 

そうしてリリースされた最新作『Lament』。その答えはこの楽曲に全て込められているだろう。

 

このピースフルなMVに何を見るか。

僕はハードコアとは本質的にポジティブなパワーを持った音楽だと思っている。その表現には時には悲しみ、怒りなど強い感情が絡むこともあるが、発される音楽は、その充満したエネルギーによって人間の本質的な部分をエモーショナルに持ち上げ、ポジティブな影響を残す。僕は今作を持ってTouché Amoréがハードコアを以てして幸福の伝道師足らんことを決意したと感じた。人間の本質的な高揚感、幸福感、湧き上がるポジティブな感情を、歪んだ叫びによって表現することで、ポジティブを伝播させるハードコアを産み出そうとしているのだと、迷いなく直感した。

 

昨今、感染症によって大きな閉塞感に包まれた世の中に送り出されたこの音楽とこのMV。そこに溢れるポジティブへの強い志向性、仲間と、温かな感情と共にあれ(MVには、La Dispute、Birds In Row、Converge、My Chemical Romance、Deafheaven、さらにはSlipknotやSkrillexなど、彼らの「仲間」が多数出演している)というストレートなメッセージは、今まで以上に情緒的に変わったバンドサウンド、その突き抜けるようなサビの一節、「I need reminders of the love I have, I need reminders good or bad」という繰り返されるフレーズにまっすぐに込められていると感じた。

 

アルバムは頭上一面に広がる青空を突き抜けるようにして飛んでいくような、飛翔する疾走感を持って駆け出す”Come Heroine”にて幕を開ける。

 

まろび出すようにして前へと運ばれた足が一度止まるのは#5 “Limelight”。ピースフルなアルペジオから静かに始まり、アルバムの空気を入れ替えるこの曲はManchester Orchestraがfeat.し、アンディ・ハルのオルタナティブな歌唱が叫びの裏で空に彩りを加える。

#5はこのアルバムでの立ち位置は異色、今作はショートチューン中心のスピーディな構成のアルバムだ。ショートセンテンスの中で一つ一つ叫びたいテーマを紡ぐ。結果、アルバム全体も低カロリーにまとまったことで前作以上に聴きやすさが生まれ、それは音楽のポジティブ性をよりストレートに伝えることに寄与している。

カントリーなフレーズワークとたった3分の中で繰り返されるシンガロンが、温かさとソリッドさの両立として表現された#8 “A Broadcast”や、激情の血を忘れさせないスリリングな展開で激情フリークの血を沸かす#10 “Deflector”など経由し、ピアノが独白的な歌声に寄り添い、感情が爆発する#11 “A Forecast”によって幕を降ろす今作、『Lament』。

嘆き悲しむ、哀悼する、という意味を持ったタイトル『Lament』に今年アメリカで猛威を振るう感染症への感情を無視することはできないだろう。そんな中でもこれだけポジティブな推進力を持った音楽を哀悼の意を持って世に送り出したTouché Amoréから僕は非常に多くのパワーを受け取った。このアルバムが、閉鎖的な空気にさいなまされるみんなにとっての力にならんことを。

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

このライターの記事を読む