disc review生き抜け!フジロック〜ここをキャンプ地とする〜

tomohiro

個の熱量に圧倒される土曜日 そして、雨へ

 

初日、相当の密度でライブを見た僕であったが、土曜日曜は若干落ち着けるスケジューリング。

まずは朝一番、レッドマーキーの落日飛車から始める。落日は、僕が台湾のインディーシーンに興味を持ち始めた時には既に存在感があって(透明雑誌か、Boyz & Girlか、落日かぐらいの)、その頃はめちゃめちゃにいなたいオルタナを鳴らすバンドだったと記憶している。確かファーストのリリースタイミングでサマソニ出てたんだっけな?しかし、そこから数年を経て彼らは世界有数と呼べるほどに完成度の高いAORを送り出すバンドになっていた。日本でも盛んだったAORだが、もはやそのお株は日本にはないと言ってもいいほどに純粋でスムース。朝一番から彼らに駆けつけた人たちと一緒に日本の香りを想起させながらも、完全に海の向こうの音楽である彼らの不思議なグルーヴに身を委ねた。

まだ眠かったので少し昼寝を挟み、次はGEZAN。GEZANはその音楽自体には正直今もピンと来ていない、その一方でライブの素晴らしさ自体は今回のフジの中でも指折りだったと思う。いわゆるカルチャー志向の若者の中で崇拝に近い支持を集める彼ら。金曜の朝にGEZANは本当にやばいと友人に力説していた眼鏡のお兄さんを見かけたのだが、彼はホワイトステージでも友人にGEZANの素晴らしさを力説しながら前へ前へと走っていった。実際にGEZANのライブは、それ全体が一つのムーヴメントを起こそうという確かな野心を感じるものだった。ライブとはあくまでも音楽を演奏する場であり、パッケージングされた音楽の披露の場である、という認識はとても当たり前で一般的なものだと思うが、久しぶりに生の躍動感、表現としてのライブを見た、そういう場所だった。キャビネットによじ登り、時にはディジュリドゥを吹き込むベース、パワフルに疾走するドラムとギター、そしてボロボロのギターを片手に、声高々に主張する、マヒトゥ・ザ・ピーポー。捨て置けない熱量の存在するそのライブには、THE NOVEMBERS、ENDON、Discharming manなど、パンクの世界線の異端児たちが次々と現れ叫ぶ。大きな何かが起こりそうな、確かに起きていた非常に扇動的な空間だった。

熱量にほだされ、少し疲れていた僕の休憩時間がここから始まる。ホワイトステージの隅の隅にレインコートを広げ、ZOOをBGMに贅沢な昼寝をかまし、寝ぼけた頭でキセルを少しかじり、そして次はいよいよ、今回のフジロックの大きな目玉(個人的なね)である、UNKNOWN MORTAL ORCHESTRAのライブだ。

 

メインコンポーザーのルバン・ニールソンとベーシストのジェイク・ポートレートを中心としたサイケデリックプロジェクトである彼ら。元Whitneyであるルバン・ニールソンから辿って知った彼らだが、今や現行インディーロックの頂点といっても過言ではない存在感がある。開演直前に、おそらく彼らを知らないであろう人たちが「オーケストラって名前から想像するに、自分と趣味合わなさそう」みたいな話をして去っていくのをぜひ引き止めたかった。ちなみにここでは同行した僕含む男3人がTYCHO以来の再集合を果たし、おもいおもいに爆発的ブチ上がりをかました。

キレのあるダンスをかましながら、ブッチブチでおおよそ常人の感性で使いこなせないファズギターをクレイジーに弾きこなし、一曲目から客席に飛び込む驚異のカリスマ、ルバン・ニールソンに振り回されっぱなしの50分、ライブサポートに彼の父親がいるとしれば、彼を世に送り出してくれたことへの感謝は尽きず、最後の最後に完全にわかっているHoneybeeの演奏まで、夢のような時間とはあれのことを言うのだろう。これは本当に見てよかったライブだ。ライブで聴いて初めてわかる、彼らの彼らでしかなさ、彼らの音楽の孤高さ。あまりにもカッコいいライブだったので具体的な感想が出てこない。ぜひいつかは見て欲しい。

おまけで、ルバン・ニールソンの意味不明なアンプ配置を見てくれ。(何回ルバン・ニールソンって言った???)

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この日は若干体力回復に務めたくて、あまりバンドを見ていない。

この後は空腹を紛らわせたりしながら、少しだけコートニー・バーネットを見て、レッドマーキーに向かった。いまやインディーポップを語る上で外せない、というか中心に居座ってしまった俊英、ALVVAYSを見る。インディーポップ信頼度は僕は出音のデカさで測ることにしていて、彼らはとてもいい出音だった。シューゲイザーへの敬愛を持った、とてもとてもスイートで完成されたインディーポップ、そりゃこれが売れないはずはないわけだ。ゆっくり見ていたかったのだが、雨が強くなってきて屋根付きのレッドは異様な密度だったのであまり気持ちの余裕がなかったのが残念。

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ちなみにここでSAPPYのたるもとさんと会い、同行していた猫を堕ろすの薫人と雨の中乾杯をした。雨でうっすい酒だったが乾杯すればいつでもうまいからね。

 

さて、雨は降っている。正直心が折れるくらい降っている。雨具全貫通で僕は既に全身ビッショビショだったわけだが、次のアメフトまでは少し時間があった。正直テントが不安だった。みんなで連携をとって様子を見にいくことにした。降り続く雨と不安定な足元で、テントは崩壊してしまっていた。借り物なのに、、、。周辺の被害を拡大させないためにも撤収を急ぎ、可能な限り荷物は畳んで車へ。もうひと張りのテントは無事だったので残し荷物を積み込んだ。アメフトの時間が迫っている。これはまずいぞと僕は大急ぎで駆け出した。ちなみに前回のフジでも積み込みとバンドのタイミングが被ったことがあって、その時も一足早く積み込み手伝って残りは任せてダッシュ、という手法を取らせてもらった。みんな優しくて本当に助かる。その時はReal Estateがどうしても見たくて、確か駐車場からホワイトまで20分ダッシュ決めて間に合った。間に合った瞬間Darlingが聞こえてきた時には全ての行いが許された気がした。

 

今回はスタート15分前ダッシュだったし雨で人も多くてかなり厳しかったが、なんとか開始10分程度で着くことができた。アメフトはエモとポストロック好きを公言する僕にとっては当然レジェンドだが、その一方できちんと復活して素晴らしい音源を新しく送り出してきた現行バンドであるのも事実で、なんとなく僕は「1枚だけだったのがレジェンドっぽくてよかったのに」などと身勝手なことを考え若干斜に構えていたのだ。

しかし、その出音を聞けばもはや何も難しいことを考える必要はなくて、ありえないほど繊細で洗練されたクリーントーンとアルペジオはもはや全員目が澄んだ殺人鬼なんじゃないかと思った。音が綺麗すぎてシーシェパードとか贔屓にしてそうでアレと言っていた友人にはウケた。してそう。僕は学生の頃彼らのコピーバンドをしたことがあって、演奏したのはもちろんNever Meant、あとHonestly?。もしHonestly?が聴けるのならもうそれでいい、むしろ他は何やっても正直どうでもいい、くらいのテンションで見ていたので、マジでHonestly?が始まった時には今年一でかい声が出た。隣の金髪のお姉さんが若干引いてたが全て全力で歌った。僕がコピーした時は、野外だったのだけど、ちょうどHonestly?を始めたあたりから雨が降ってきて、あの長い長いアウトロを終えた後の雨の音がとても美しかったことを覚えていて、やはり本家でも雨は降るんだなとか、意味わからないことを考えながら感傷のお化けになっていた。ありがとうアメリカンフットボール。

 

もう雨がちょっと冗談じゃないくらい降っていたのだが、せめてデスキャブまでは走り抜けようと思い、まずはSIAへ。顔出ししない特殊なパフォーマンスが取りざたされる彼女は今年のライブはフジ一本らしく、かなり周囲の期待感は高かったイメージで、彼女の伸びやかで壮大な歌声と音楽はまさにその期待に応えるものであったと思う。ただ、いかんせん天候が悪すぎてみんなステージに集中できなかったと言う状況と、モニターをメインに据えたステージングは悲しくも相性が悪かったようにも思う。ちょっと疲れた。

死に体でデスキャブへ。途中川みたいになってる道を撮ってたら関西弁のお姉さんに話しかけられた。雨がやばい話をした。フジやら森道それなりに行ってて、初めて知らない人に話しかけられました。ちょっと嬉しかったです。

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デスキャブは正直体力終わってるしもう無理だろと思っていたんだけど、USインディー虎の子とも言える彼らのきらびやかで感傷的なのに、それでいて乾いていてつれない音楽は不思議と時間を感じさせなくて、大団円までしっかり見てしまった。雨なのでアンコールはない。

 

最後の一手で君島大空を見にルーキーまで行ったが、雨が酷すぎて途中で退散、隣のパレスの中でしばらく踊った。あそこは特設のテントに特有のアミューズメント臭(ユニバとかディズニーの屋内アトラクションに乗ると嗅げるあのにおい)があってなんだか高揚する。マヒト氏が途中で来たけど、なんか微妙な表情をしてしばらく揺れたのち帰っていった。僕は雨が少し弱くなったタイミングで残されたテントへ。雨漏りしてて他のみんなは車で寝てたけど、僕は閉じられた空間にたくさん人がいるのがとても苦手で、テントで寝た。濡れた身体で車に入るのもなんか嫌で。この日も身体が滑りまくるのであんまり寝られなかった。

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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