disc review生き抜け!フジロック〜ここをキャンプ地とする〜

tomohiro

初日の密度の濃さに早速圧倒される、エルレTの多さにも圧倒される

さて、今年のフジロックのスタートは中村佳穂から。朝イチで突然少年を見るのもいいかと思ったのですが、3日間通してあまりいく予定がなかったヘブン、せっかくなので行ってみようと思ったわけです。到着した時にはもう朗々とした歌声が響き渡る、そこは確かにヘブンと呼べる場所だったかもしれない。ホワイトステージまでの喧騒から更に足を伸ばす必要のあるフィールドオブヘブンは、独特な場所で、一番ヒッピーっぽい感じもある。

早速そこで友人の一団と合流し、例年通りの挨拶を交わし、同行していた友人が魔女のようだと形容する、包み込むような声に身を委ねた。

次はLUCKY TAPESになだれ込もうかと思っていたけど、もう終わりがけだったので、休み休み、とりあえずホワイトステージへ。人が動いていくのを眺めながら七尾旅人を待つ。

七尾旅人は以前国府達矢のライブで弾き語りを見たのみで、バンドで見るのは初めてだった。90年代後半に突如シーンに現れ、JPOPの特異点となった彼は、我が道の音楽を進み続け、ついにはホワイトステージへ。人懐っこさと突き放すような残酷さが同居する彼の歌声は、挑戦的に聴衆に語りかけるようで、グラグラと価値観へ問いかけてくる。

「百人組手」で鍛えた即興演奏は終わり間近にキーボードKan Sanoへの無茶振りから始まり、その奔放な歌声は最後まで聴衆を震わせていた。

 

続いては、特に予定はなかったのだが、タイムテーブルをチェックした際に何となく気になったのがKING GIZZARD & THE LIZARD WIZARDだったので、そのままホワイト周辺で待機。実はこれが大正解の選択だったと知るまであと少し。

 

KING GIZZARD & THE LIZARD WIZARDはそのふざけた名前がそのまま全てを体現するかのような、スラッシュメタルとサイケとプログレをごちゃ混ぜにして笑い飛ばすような躁的な音楽。結成10年弱でなんと14枚のアルバムをリリースするとんでもない多作集団である彼らは、その病的な音楽へののめり込みがステージングにも現れ、異様な高揚感が渦巻く。次々繰り出される見事なメタル・ギターに「クセェ!!!」と爆笑しながらも人の波に飛び込み、近所な外人と高笑いしながら踊りまくる。

毎年どのバンドかではやっておくバカ踊り枠を金曜で早速達成し、すでにある程度の満足感を手に入れつつあったのは、自明だろう。

 

今年は金曜日がアツい年だった!ここからはレッド〜グリーンを行き来しながらタイムテーブルを消化していく。ORIGINAL LOVE、是非近くで見たかったのだけど、ホワイトからの移動の疲れと人の多さに負けて後ろでゆっくり。何はともあれ接吻が聴けてブチ上がりした人は多かったのではなかろうか。僕もそんな一人。次、JANELLE MONAEをしっかり見たかったので早めにグリーンへ。

今年のフジの核を作っていた流れの一つにジャネールモネイとSIAの二人がいたと僕は思っている。その一方を担うジャネールモネイは、ダンサーを引き連れ扇情的に観客へ訴えかける。彼女の音楽は、その音楽的先鋭さもさることながら、スタンスの音楽であることが非常に重要だと思っている。扇情的に女性性を押し出しながらも、彼女はそういった性別、ジェンダーの境の先を見ていて、それがあるからただエロい歌と踊り、みたいな陳腐な片付け方はできないのだ。あれは彼女なりの戦いなのではないかと僕は思った。

つい引き込まれてしまったジャネールモネイだが、ノータイムでToro Y Moiが始まるので急ぎレッドへ戻る。トロイモアはほぼ毎年リリースを続けるハイペースさを持ちながら、常に何か新しいものを混ぜ込んでくるクリエイティブさに毎度舌を巻くが、レッドに集まった人数の多さには正直驚いた。彼はまさしく新世代のヒーローに上り詰めたのだ。すし詰めのレッドの中で、彼のトリッピーな歌声に耳を閉じ、自分のリズムで揺れる。なんとも充実した時間だった。

 

金曜日のフジロック、とても人が多かった。それはなぜか?ELLEGARDENが出るからに他ならない。他ならないと言い切れるほどに、金曜日は彼らのTシャツを着た人をたくさん見たし、そういった人たちが土曜日にごっそりいなくなっているのも観測した。彼らは僕も世代の端っことして中学生の頃にめちゃめちゃに聴いてきたし、復活の狼煙にどれほどの歓喜があったのかは肌で感じて知っていたつもりだったが、改めてその人気に驚く。セットリストはベストに入るような超名曲続きで若干のファンサービスしすぎ感は感じたが、DVDで食い入るように見つめていた彼ら4人が、なんの障壁もなく存在しているという事実は揺るぎない素晴らしさで、正直3度ほど涙を浮かべた。特に僕はNo.13が好きなのでイントロが流れた時にはバキバキにテンションが上がった。あの曲だけ明らかに客受けは微妙だった。そういうとこだぞ。

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矢継ぎ早に素晴らしい音楽を浴び少し疲れもあったが、次はホワイトステージへ。2年前のフジロック、僕はホワイトステージでbonoboを見て完全に完成されてしまったのだが、今年はTYCHOであの感覚の再来を願った。ゲストボーカルとしてSaint Sinner名義での活動も知られるハンナ嬢を迎えてのライブだったが、ハンナ嬢の少年的、少女的な挑戦的で無邪気な振る舞いと、そのあまりにアダルトな表現力は西洋的な女性ボーカル像の結実した一つであると感じるほどに圧巻のものだった。まぁボーカルなしの曲のが音でかいし没入感も強くてよかったのだけど。TYCHOもbonoboも、音源で聴いた時に感じるヒーリングな要素以上に、バンドスタイルで見た時の大きくて肉体的な躍動が素晴らしい音楽で、本当にTYCHOは最高だった。2年前のbonoboの感動を、仲間内で「魂の神殿」と称しているのだが、僕にとっては間違いなくTYCHOも「魂の神殿」であった。

他の二人は未達だったようだけど。

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この時の感動は、この記事を書いているトモヒロツジの当時のツイッターに詳しい。

大真面目な話あのライブを全世界の人間が体感していれば、いじめとかなくなるだろうなと思った。それくらい全能的な何かがあった。本人たちはめちゃくちゃドラッグキメて作ってそうだけど。キメてないとできるわけないでしょくらいの純粋な全能性があったのだ。

 

もうこの時点でフジロックきてよかったしもう今日はいいやぐらいの満足感があったのだけど、CHEMICAL BROTHERSが見たいのはやはり人情というものだろう。今や地球規模で日夜人々を踊らせ脂肪を燃焼させる彼らのテクノは言語とか価値観とか全部関係ないプリミティブなもので、手に持ったビールに雨が溜まるのも気にならず、無限に踊り狂った。途中で隣のアジア人がタバコ吸い出して火が当たりそうでヒヤヒヤしながらも踊り狂った。彼らのテクノは溜めと解放のバランス感がちょうど痒くて仕方ないタイミングで掻いてくれる孫の手みたいなもので、ストレスなく踊れるところがこの人気の秘密ではないだろうか。ちなみにフジの行き帰りの運転を支えてくれたBGMははじめてのケミカルブラザーズpresented by Apple Music。

 

正直疲労がエグすぎて今にも死にそうだったが、生の本人を目撃しとこうくらいの野次馬感でトムヨーク見に行き、サクッと満足して、眠い頭を一生懸命鞭打ちながらレッドへ到着。深夜だし人少ないから許してくれと思いながら座椅子展開、半分寝ながらBIG YUKIの超絶技巧チャラジャズに生死の境をさまよわされ、実質睡眠が歩いている状態でテントにたどり着き寝た。本当はKid Fresinoまで粘りたかったけど、全くもって体力不足だった。めちゃよかったらしいですね。僕は斜面のテントで体がずり落ちるたびに起きながら浅い睡眠で朝を迎えました。

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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