disc review別れをもたらす軍靴、胸を震わす軍歌
DreamhouseTides Of Man
まず印象に残るのは何と言っても、唯一無二、不世出なGt/Vo. Tilian Pearsonの美声であり、彼が歌い上げるメロディは、戦場に赴く兵士との恋のような、苦しく切ないシネマティックな現実を嘆くかのごとき憂いを感じさせる。相当なハイトーンパートすら美しく歌い上げる彼のボーカルワークは、それだけでこのバンドを頭一つ飛び出た存在へと押し上げている。このバンドの他のメンバーにとっても、Tilianのボーカルワークは特別なものであったようで、このアルバムを制作したのち、脱退したTilianの後釜を見つけるには至らず、現在彼らはインストゥルメンタル・ポストロック・バンドとして活動を続けている。なお、脱退後のTilianはSaosinへの加入が噂されたり、Dance Gavin Danceへクリーンボーカルで加入したりと、その存在感を示しており、現在はArchivesなるソロ・プロジェクトの準備を進めているらしい。
今作は前作に続き、スクリーモの名門、Rise Recordsからのリリースであり、Memphis May Fire、Of Mice & Men、Sleeping With Sirens、The Devil Wears Pradaなど、Saosin正統後継とも言える、現在のスクリーモの最前線を行くバンドたちと肩を並べながらも、明らかに異彩を放っている。これは同じくTilianの参加するDance Gavin Danceにも同じことが言え、彼という存在がバントの持つカラーを異質にマーブリングし、スクリーモを変質させていることを示している。
もちろんTilianの存在のみがこのバンドの傑出した点ではない。二本のギター(時にはベースも)をメロディアスかつメカニカルに絡ませる構築美は、楽曲にクラシカルで美麗な悲愴感を漂わせており、これもなかなか他のスクリーモバンドには見られない美味しい部分だ。#1″Not My Love 2″や#3″Sunshine”、#6″Salamander and Worms”で炸裂する前述したメカニカルリフのクドさはもはや笑ってしまうほどであり、ここまでやられると逆に気持ちいい。一方で#4″Dreamhouse”、#7″Chemical Fires”、#9″A Faint Illusion”では空間系エフェクトを駆使し、アルバムに浮遊感を与える。特に推薦したいのが#7であり、無重力なイントロに始まり、それが途切れるとともにすでに名曲たらしめるアルペジオ、Aメロでのリードギターの見事な裏メロとしての仕事、サビで現れる彼ららしいメカニカルミゼラブル、中盤のブリッジフレーズに至るまで歌モノとして非の打ち所がない名曲である。
叫びがちに歌ってもしっとり歌っても魅力的なボーカルワークに酔いつつ、その奥でうねる楽器たちを聞いてみると、ボーカルにその全ての魅力を持って行かれていない芯の強さが見え隠れしており、このバンドの更なる味わいに気づくことができるだろう。
Not My Love 2
Sunshine
Chemical Fires