disc reviewcllctv. 企画 Internal Meeting vol.1 ライブレポート

tomohiro

ジャズマスターが鳴った後に

ここにきてまだ折り返しだというのが、恐ろしさすら感じますね。当日ほぼ1バンドごとに缶ビール一本開けながら、転換中はカレーを配って、そんなめまぐるしい中で僕の感覚はどんどん鈍化していき、結果より感情が爆発するどうしようもない酔っ払いになっていくわけなのですが。

そんな感情ドリブンさが勝ってきたところに、今回の出演者枠の中でも思い入れの強い、ジャズマスターが鳴った後にがきてくれます。愛知県岡崎市で活動を開始し、活動期間こそ数年だったもののその間に名古屋のオルタナティブの良心として確かな足跡を残し、今はメンバーそれぞれが別のバンドを率いて、名古屋のシーンを形作る。そんな非常に心強い存在になった朝倉、和田の両名に新たにベース長田を加えた「今の」原点に触れられたのはとても嬉しいことでした。

 

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ライブ直後のプリマのメンバーも最前に合流し、聞こえてくるのは、耳慣れたドラムフレーズ。”崩れる均衡/叶わぬ邂逅”から彼らとの再会は始まる。ミドルテンポのドラムフレーズの特徴的な間が空気感を引き締めるようにして形作っていく。目を閉じ、噛みしめるようにして聴く客席の様子に、少なくない人間が彼らの音楽を再び聴くことを待ちわびていたのだなと改めて実感しました。きちんと届くべき場所に届けられている手応えは既に一曲目にして十分。続くのは、感情のバーストが色鮮やかな”精彩を欠いた”。彼らの楽曲の中でも随一の熱量を持った楽曲が既に2曲目にして現れ、こちらも気持ちが上がらずにはいられないわけです。新ベースの長田くんのボーカルも想定以上の透明感で、力強くなった朝倉のボーカルと重なって、説得力も十分。何度も聞いてきた「精彩を欠く」バースト、今回も混じり気のない感情のままに、演者の、観客のそれぞれの爆発があって非常に良かったです。

聞こえてきたのは”ベランダ”を形作るループ。バンド名もすらりと言えないほどライブが久しぶりになっても、当時作ったループがそのまま今の彼らを支えているという、なんともエモなエピソードである。決まった温度感の中をじっくりと醸成させるように音を並べ、詩を紡ぐこの曲は、活動後期の円熟味を増しつつあった彼らの佇まいをよく表している楽曲。必死に過去に身を寄せなくとも、今の彼らが演奏するジャズマスターが鳴った後にには今の彼らが持つ確かさがあることを実感させてくれる、そして会場にもそれを後押しするような温かさがあったと思います。

 

清涼なリバーブに彩られたギターから始まるのは”ビコーズアイワズヤング”。名盤『ビコーズアイワズヤングep』の名をそのまま冠すこの曲は、あの頃の彼らの感情の集約であって、それが「ビコーズアイワズヤング」であったのだなと、今なお噛みしめるように思い返す曲です。そんな甘酸っぱさも持ち合わせながらも語りかけるような静かさをまとい、ひとつひとつ積み重ねる言葉に真剣な眼差しを向ける僕らにとっての、写し鏡のような包容感のある演奏でした。

 

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尾を引くフィードバックを畳み、最後はもちろん、”レイチェルの言い訳”。外すことのできない彼らの代名詞で、最初期からあるこの曲ですが、青春の残渣も思わせる甘いメロディはずっと聴く人々の心を捉え、いつも大きな合唱に包まれて演奏されている、そんな曲です。もちろん、今日も止まない歓声、叫び、合唱に包まれて。

「ありがとう」に包まれ演奏を終えたジャズマスターが鳴った後に。また彼らの音楽が動き始めたことに、改めて祝福を!

セットリスト


  1. 崩れる均衡/叶わぬ邂逅
  2. 精彩を欠いた
  3. ベランダ
  4. ビコーズアイワズヤング
  5. レイチェルの言い訳

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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