disc review新世代へと変貌を遂げた、2016US激情必聴作!
Stage FourTouché Amoré
Pianos Become The Teethとともに、US激情、ならびにそこを起点にしたポスト・ハードコアシーンを牽引するビッグバンドとなった、Touche Amore。徐々にクリーンでスクリーモ色を強めるアプローチを続けてきているPianos Become The Teethに対し、同様にメインストリーミングへの登壇の気配も見せながらも、変わらず胸を焦がすように叫び続けているのがTouche Amore。まずはそれぞれのバンドの1stアルバムを聴いてみる。
このように、どちらも活動初期はまさに激情と呼べるような悲痛なスクリームとアグレッシブな展開を駆使したバンドであったことがうかがえるだろう。この辺りは、今も激情的なスタンスをキープしているThe Saddest Landscapeなどとシンクロする感覚が感じられるのではないだろうか。Pianos Become The Teethは1stアルバムから既にTopshelfに在籍しており、既にサウンドクリエイトやその叙情性、構築力には目を見張るものがあり、ポストロック方面からの影響も十分。その一方で、Touche Amoreはフレージングや録り音も非常に荒削りで、初期衝動の詰まった疾走感が感じられる。Pianos Become The TeethはTopshelfからのリリースを続け、2ndはCrash of RhinosやCastevet的な90’sエモ由来の青さを加味し、様々な音楽性を取り込みながら、2014年作のターニグポイントとなるEpitaphからのリリースの、3rd “Keep You”でついにスクリームをほぼ捨て、スクリーモと呼ぶにも静かで抑圧的で、美を前面に押し出してきた、クロスオーバーバンドへと”化け”た。
耽美な佇まいさえ感じる、”美しい激情”へと至ったPianos Become The Teeth。
一方で、Touche Amoreは2ndのリリースがDeathwishから。初作のカオティック成分を、Deathwish仕立てでより磨き上げ、男臭さもそのままに突き進んだ。その後も3rdアルバムを続けてDeathwishからリリースし、変わらずに感情を撒き散らしヴァイオレンスかつジューシーにその音楽を拡張していったTouche Amoreだが、4thのリリースにあたって、大きな転機が訪れる。Pianos Become The Teethの後を追うようにして、彼らもEpitaphに所属したのだ。そうしてこの2016年にドロップされたのが、4th “Stage Four”。彼らは一体どのような変化を遂げたのだろうか。
アルバムの一曲目、”Flower and You”だ。まずはこれまでの彼らの感情をどこに隠したかと疑ってしまう、クリーントーンにより幕を開ける。そうして訪れる疾走、だがしかし、バックでリバーブとともに鳴らされるギターフレーズの叙情性は、これまでのパワフルの彼らにはなかったものだ。確実に芯としてのパワー感は残しつつも、そこにクロスオーバー的な新たな世界観が加味されている。この曲から既に彼らの身に起きた変化に気づいたリスナーは多いだろう。続いて印象的なのが、#3 “Rapture”。
ミドルテンポで冒頭からメロデスばりのクサメロをぶっこんでくる、ある意味問題作だ。繰り返されるメインリフにボーカル、ジェレミーボムのスクリームが重なった瞬間の身を切るような悲痛さ。今までも彼らが秘めていたメロディアスを爆発させたかのようなエモーショナルなトラックだ。#5 “Benediction”はついにクリーンボーカルでの歌唱が始まる。決して美声というわけでなく、あくまでも平坦な声質のボムの歌は、ポエトリーリーディングのような趣を与え、自省を繰り返すようなストイックさを感じさせる。そして安定のスクリームによる感情の発露。楽曲内での立体感がこれまでと段違いに増している。
一方でこれまでの疾走感を続けて持ち続けているのは#7 “Palm Dreams”。
Deathwish感のあるパワフルな展開は彼らが未だにハードコアという音楽をやっているという自負を、強く表現していきたいという証左かのようにも思える。その後も#8 “Softer Spoken”、#9 “Posing Holy”と疾い曲が続き、#10 “Water Damage”。この曲はベースが実にいい仕事をする。みずみずしく、粘りのあるベースラインでクリンパートを彩り、スクリームパートではゴリゴリと下から楽曲へ圧力をかける。
そして、このアルバムにおいて最もエポックメイキングであった大名曲、#11 “Skyscraper”にてこのアルバムは終わりを迎える。ロングトーンのコードワークで色づけされるセピア色のメロディには、芯がありつつも儚げな、彼女その人でしかない、ゲストボーカルの歌声が重なる。今エモ、ハードコア界隈で圧倒的な存在感を誇る女性SSWの新星、Julian Bakerその人の声だ。トレモロによってより感情を高めていく楽曲が、ボムのスクリームへの伏線を引き終えた後の、Explosions In The Skyとも並べたくなるような、エモーショナルの爆発は、あまりにパワフルでこちらはただ呆然と聞くのみ。そして、その一回の爆発であっけなくこの曲は終わってしまうのだ。その儚さも美しさに拍車をかけるこの曲は、クロスオーバー型の激情/ポストハードコアシーンに語られるべき名曲となった。
今までの激情の枠組みを完全に逸脱し、新たなる世界を切り開いたTouche Amore。
間違いなく今年の最重要作の一つに挙げられる一枚だ。