disc review脈動する星々と、零れ落ちる夜空、粟立つ地平

tomohiro

After DarkUlm

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名古屋で結成された4ピースシネマティックポストロック、Ulmの1st。monoからの強い影響を語りつつ、さらにはVirgin Babylon Records周辺のVampilliaを始めとするエクストリームミュージックと、World’s end girlfriendmatryoshka系列の流麗で感傷的なエレクトロニックからの影響を重ね合わせ、行き着いた先のシューゲイジングではXinlisupremeや同郷のAysula、tettoh等の爆音、轟音とも形容できる音の暴力で感情をむき出しにする。

とかく長尺の轟音系ポストロックとなると、及び腰になることはままある。かのシーンの長所とも短所とも取れるある種の冗長さは、やはりジャンルで聞いている人間にはイメージとしてつきまとうものがあるだろう。例えばExplosions in the skyとか、This will destroy youとか、そのあたりの残像がちらついているのであればぜひそう行ったイメージは取り払ってみて欲しい。皆さんはCaspianの”Dusk and Disquiet”は聞いただろうか。

僕はあの音源は最近いよいよ煮詰まって来た、かのシーンに風穴を開けた作品だと思っていて、嵐のようなスペクタクルと高揚感は、これまでの遠赤外線でじっくり熱を通すと美味しいみたいな作風が多かったシーンで非常にエネルギッシュな輝きを放っていたように思う。そこにはメロディのキャッチーさと全体の構成のアップダウンの大きさ、そして構成要素の「ちょうど良い長さ」が大きく寄与していると思っているのだが、果たして、そういった短くて美味しいものを作るのが上手い国があるらしい。

 

そう、我らが日本である。

なので、僕は日本人が持つそういう耽美さ、(ちょっと極端に言えばクサメロ)描写する情景の鮮やかさを強みとして押し出していくこともすごく大事だと思っている。結局僕らはどれだけ頑張ってもMOGWAIにはなれないのだ。根っこに流れてるのが演歌とか歌謡曲である限りは。

さて、話題を戻すが、Ulmがリリースした今作”after dark”は3曲で25分近くという、まぁ恐ろしく大曲ぞろいなわけだが、前述したような長尺系ポストロックの冗長さはそこにはない。「ちょうど良い」気持ち良さで、蕾が花開くように変化していくフレージングと、各シーンのスムーズな接続、時に災害のように鳴る轟音の奔流との組み合わせで飽きさせることなく聞かせてしまう。彼らの描き出す情景は、一曲の中に、あるものの始まりから終わりまでが全て詰まっているような濃密さがある。特に、#1 “Flood Of Light”や#3 “Sanatorium” はまるで一曲の中でコンセプトアルバム一枚分のストーリーが詰め込まれているような、そんな壮大さがあり、その中に、四季の移ろいのような色鮮やかさが秘められている。

一方で、#2 “A Dream Slave”に注目したい。他の2曲に比べ、よりメランコリックな妖しい香りを漂わせながら、タイトでリズミカルなドラムと縦割りのギターフレーズがザクザクと楽曲を横断する様は、Post Metalを思わせる。要するに僕がお気に入りだという話なんだけど、こういった若干フックを効かせたものが一曲入ることによって、3曲構成のアルバムの輪郭がよりはっきりするように思う。

ライブ活動は数年前から行っており、シーンの中では待望となった今回のリリース。今やTokyo jupiterにも割って入る同郷のheliostropeのように、名古屋に始まり、力強く外へその美しさを発散して行って欲しい。

8月中のCD売上の全額を寄付するという奇特な試みにも注目が集まる。3曲25分で500円。しかも初動売り上げは実質ゼロ。とんでもないブラック企業Ulmの送り出す、BlackなPost Rock/Shoegazerをお見逃しなく。

 

 

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WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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